『GTA III』に“住んだ”数日間──都市の後味が体に残るゲーム体験

ゲーム

『Grand Theft Auto III』(グランド・セフト・オートIII/GTA III)(Rockstar Games/2001年[原作]・2021年[リマスター版])

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:寂れた路地裏を歩く。 © Rockstar Games

 

💡 『Grand Theft Auto III』(グランド・セフト・オートIII/GTA III)とは?

発売年:2001年(※本記事では2021年のリメイク版をプレイ)
舞台:架空の都市「リバティーシティ」──ニューヨーク等をモデルにした犯罪都市
特徴:シリーズ初の3Dオープンワールド化。自由度の高い都市探索・ミッション構造が当時革新的とされる。主人公はカーチェイスや強奪、時には爆破まで、裏社会の仕事を請け負いながら街でのし上がっていく。
プレイ感覚:車移動・路地探索・昼夜変化などが導入され、のちの『GTA』シリーズや他作品の原型に。
リメイク版:2021年に『Grand Theft Auto: The Trilogy – The Definitive Edition』としてHD化されたバージョンがリリース

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短期移住したかのような余韻

最近『Grand Theft Auto III』リメイク版(Definitive Edition)をプレイした。

ロックスター・ゲームスの “オープンワールドの元祖” とも言えるタイトルだが、これまで一度もクリアしていなかった。そこで「やっぱり、いちおう通っておこう」と思い立ったわけだ。

ミッションは、今のオープンワールド感覚で言えば 「難しすぎる!」 と悲鳴を上げたくなる場面も多い。けれど気が付けば、ゲーム自体の出来映えよりも──いや、楽しめたのは確かなのだが──アメリカの都市の断片が体の内側にこびりつく感覚のほうがはるかに強烈だった。

 

深夜に隠れ家へ帰ってセーブし、夜明けとともにエンジンをかけて街に出る。そのルーティンを繰り返すうち、僕はいつの間にか “GTA III のリバティーシティに短期移住していた” ような気分になっていた。

現実のアメリカ生活で毎朝くり返していた儀式──車のドアを閉め、キーを回し、アクセルを踏む──が、ゲームの中でもそのまま必要になる。

「ゲームのテンション」ではなく、「今日も仕事に行くか…」という日常の足取りで車に乗り込む時間が、胸に妙なリアリティを刻みつけていったのだ

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:今日も、廃れた町をドライブして仕事場へ。 © Rockstar Games

 

 

シンプルなグラフィックが際立たせる都市の骨格

GTA III のグラフィックは、リメイク版とはいえ 2001 年生まれのゲーム。モデリングも描き込みも控えめで、ビルの窓も道路の割れ目も、どこか「情報が抜け落ちたような質感」に仕上がっている。

だがこの簡素さこそ、装飾感の少ないアメリカ都市の骨組みをむき出しにしてくれた。

最近のゲームのように、精密な陰影や数多くの看板の文字に目を奪われることがないぶん、くすんだ空気に沈む倉庫街や、ナトリウム灯のオレンジ色が “面” として視界に飛び込んでくる

白黒写真を眺めるときに、余計な情報がそぎ落とされてストラクチャだけが浮かび上がる──あの感覚に近い。都市構造の大きなリズムが、体そのものに刻みつけられるような感覚があった。

結果どうなったか。爆発音もカーチェイスも忘れたあとで、頭の内側に残っているのは「巨大な箱形の倉庫が静かに並ぶ港湾」「灰色の高架下にだけ残る昼下がりの湿気」といった無名の風景だった。

細部がぼやけたからこそ、都市の「芯」だけが骨格見本のように提示され、ゲームを終えてもしつこく体に染みついて離れない──これが GTA III の描きすぎないリアリズムなのだと思う。

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:最初の隠れ家もよく見ると、建物のシンプル構造が味わい深い。 © Rockstar Games

 

 

路地裏と“隙間”を歩き尽くす

GTA III を始めるとすぐ、僕は「シークレットパッケージ集め」に時間を費やすようになっていた。銃や体力アップと並ぶ、いわば “ただの収集品” だ。けれど、それを追う足取りが、街の毛細血管に血を通わせていく

メインミッションだけでもマップの隅々へ連れ回されるが、パッケージ探しによって、さらに一段深い “裏側” へと静かに誘われていった。

商業地区と住宅地はもちろん、錆びた倉庫街、港湾、飛行場、ダム。

普段なら素通りする高架下の影、配送トラックしかいない搬入口、ビルの裏口の非常階段──現実でも足を踏み入れない “薄汚れた都市の隙間” を、毎日のように歩き回っていた。

シークレットパッケージを求めて、屋根伝いに飛び移ったり、高架の影に足を踏み入れたりしているうちに、地図アプリ片手に廃墟を撮り歩くアーバン・エクスプローラーになったような気がしていた。

その内に、パッケージが見つかることよりも、都会の片隅の空気が体に染みわたってくる感覚のほうが心地よくなっていく。

こうした “死角” が胸に残るのは、スティーブン・ショアやジョエル・スターンフェルドといった写真家の、何気ないアメリカの風景を捉えた作品世界を、僕が元々こよなく愛しているせいだろう。

駐車場に射す夕陽のオレンジ、モーテルの看板が落とす長い影──ゲームの中でさえ、そうした一瞬の光景に見とれて時間を食う。

 

マップが広過ぎないのも効いている。ほどなく僕は 「これはあの倉庫の裏道だ」「ここの段差は駆け上がれる」と道順を体で覚え、終盤にはミニマップを見ないで走れるようになった。隅々まで歩き尽くした頃には、もはやプレイヤーではなく“住民”。

街灯の灯りがともる黄昏どき、ふと「今日はどの抜け道で帰ろうか」と考えている自分に気づき、思わず、ひとりで苦笑いした──それほどまでに、この街の裏道が、自分の日常になっていた。

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:建物の裏側にひっそり隠されたシークレットパッケージ。探す過程で、都市の隅々まで歩き回ることになる。 © Rockstar Games

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:薄汚れた裏通りを通り抜ける。 © Rockstar Games

 

 

ゲームを超えて残る都市感覚

GTA III を遊び終えたあと、体には銃声でもラジオでもなく──路地裏に溜まった湿った空気の匂いだけが残った。

だからこそ声を大にして言いたい。ゲームファンでなくても、アメリカ都市のスナップ写真や“日常の余白”に惹かれる人にはぜひ触れてほしい。

難点はただ一つ、序盤から遠慮なく牙をむくミッションの難しさ。でもここは割り切って、攻略サイトやYouTubeのプレイ動画に頼ればいい。自力クリアに固執するより、街を歩き回る時間を確保するほうがずっと有意義だ。

そしてコントローラーを置いたら、しばらく “都市の残響” に耳を澄ませてみてほしい。高架下で跳ね返るエンジン音、雨上がりのアスファルトの匂い、倉庫街にだけ漂う錆の味──そんな感覚がまだ体に引っかかっているはずだ。

もしその余韻が心地よければ、次はアメリカでの現実のロードトリップへ。レンタカーで工場地帯の脇道を流し、モーテルの看板越しに夕暮れの空を見上げてみるといい。きっとゲームの中で見慣れた “平らで無機質な風景” の骨組みが、リアルな存在感をもって立ち現れてくるはずだ。

 

GTA III は、暴力と混沌のゲームと思われがちだが──本当の主役は、名もなき都市風景そのもの。スクリーン越しに短期移住したあの街は、電源を落としてもあなたの内側で灯りをともし続けるだろう。

 

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都市の骨格を歩く:GTA III のスナップ写真

文章で歩いた都市の記憶を、今度は静かに写真で振り返ってみたい。ゲーム中には慌ただしく通り過ぎてしまう風景を、ゆっくりと眺めてみてほしい。

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:序盤にミッションを受ける建物の裏側。薄汚れているが、「隠れ家」的な居心地のよさがある。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:最初の隠れ家付近の道路。汚れた都会の片隅でなんとか生きていこう、という感覚を噛みしめながら歩く。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:狭い路地裏を静かに歩く。都市探索感が心地よい。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:立体駐車場の最上階。アメリカらしい余白の多い風景。“退屈”な風景なのに、“異空間”を感じさせられる。スティーブン・ショアの写真集を眺めたくなってくる。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:建築物の構造だけが露出したような風景。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:都市の高架を走る空気感がにじみ出る。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:高架下をドライブ。ぽっかりと空いた広い空間に独特の雰囲気が漂う。 © Rockstar Games

 

『Grand Theft Auto III – The Definitive Edition』より:夜に建築現場の片隅を“観光”する。ライティングが美しい。 © Rockstar Games

 

 

都市の余韻を写真で──おすすめ写真集

 

『Uncommon Places: The Complete Works』(Stephen Shore)

Uncommon Places: The Complete Works(Stephen Shore)表紙画像(出典:Amazon商品ページ

 

ざらついた駐車場、名前もない交差点――『GTA III』の中でふと立ち止まったのは、そんな“骨格だけの都市”だった。そうした感覚に、もっとじっくり浸りたい方には、スティーブン・ショアの写真集Uncommon Placesをおすすめしたい。

ロードサイドのモーテル、無人の交差点、装飾のない建物──『GTA III』とまったく違うはずの1970年代アメリカの現実が、不思議と似通った空気をまとって写っている。都市の「構造」や「余白」に惹かれる人なら、この写真集には確実に引き込まれるはずだ。

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荒涼とした都会の世界観を他のゲームでも味わう

 

『マックス・ペイン(Max Payne)』(Rockstar Games、Remedy Entertainment / 2001年)

『Max Payne』より:渋い都会の空気感。 © Rockstar Games

 

『GTA III』の都市の風景に引かれた方には、同じRockstar Gamesの『マックス・ペイン』を強くおすすめしたい。こちらも古いゲームだが、アメリカに漂う“都会の荒野” の雰囲気を、今でも存分に味わえる大人のゲームだ。

戦闘を中心としたゲームプレイやハードボイルドなストーリーも面白いが、今回の『GTA III』記事に共感した方であれば、『マックス・ペイン』の都市の世界観にも浸ってほしい。『GTA III』ではほとんど描かれなかった「建物の内部」の廃れた空気を味わいながら、じっくりとプレイしてもらいたい作品だ。

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