『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』書評・感想・レビュー : 自宅で水上ソロ・キャンプを満喫できる本。読んだら、北米でカヌー&カヤックを体験しよう!

『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』(大竹英洋著/2017年)

👉 Amazonで見る『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』

 

 

本書で語られる「Portage(ポーテージ)」とは?──カヌー旅を支える陸路の移動

カナダやアメリカの森林地帯では、大小の湖が無数に連なる地域をカヌーやカヤックで巡るアウトドア体験が根付いている。湖をカヌーで渡り、次の湖へと向かうために、間の陸地をカヌーや荷物を担いで歩く──この「陸路の運搬行為」のことを「Portage(ポーテージ)」と呼ぶ。

たとえば、

湖を渡る →
上陸して、カヌーを頭上に担ぎ、荷物とともに森林の小道を歩く
次の湖に着いたら、また水面に漕ぎ出す →
夜は湖畔でキャンプし、翌朝またカヌーで出発する…

という行程を繰り返しながら、湖と湖をつなぐカヌー旅を続けていく。
「ポーテージ」はこの旅の中で欠かせない、自然の中を、自力で乗り越える時間だ。

 

下のリンクの地図を見てほしい。これはカナダのトロントの北部にある「アルゴンキン州立公園」(Algonquin Provincial Park)だが、ポーテージを含んだカヌー旅でも有名な公園だ。周辺に数多くの湖が散らばっていることがわかる。

アルゴンキン州立公園 · Ontario 60, Ontario K0J 2M0 カナダ
★★★★★ · 公園

 

この公園のように、本書の舞台となるアメリカ北部の一部地域や、その北に広がるカナダ──特にサスカチュワン州北部から東へと続く森林地帯──には、氷河によって形成された無数の湖が点在している。

本書の舞台となったミネソタ州は、別名「1万の湖の地(Land of 10,000 Lakes)」とも呼ばれており、全米最多の湖が存在している。また、その北に接しているカナダには、世界最多の湖があり(世界の湖の約6割)、その数は200万以上にも及ぶといわれている。

それら「湖から湖へ」巡っていく、数多くのカヌー・ルートが存在し、旅のガイドブックにも様々なコースが紹介されている。

 

僕のカナダ人の知り合いも、1週間以上のカヌー旅に出かけて楽しんでいた。森の最深部まで到達すると人もいなくなるので、静かな湖を独占してのんびり過ごせるらしい。

 

 

本の内容・感想

前置きが長くなったが、この「ポーテージを含むカヌー旅」を主な題材にした旅のノンフィクション本が、今回ご紹介するそして、ぼくは旅に出た。:はじまりの森 ノースウッズである。

 

舞台は、アメリカ・ミネソタ州北部の、森林に囲まれた湖水地帯。写真家を目指す大学時代の著者・大竹氏は、ふとしたきっかけから、「ノースウッズ」と呼ばれるアメリカ大陸中央北部に広がる湖水地方を、撮影のフィールドにしていきたいと考える。

そこで、アメリカのノースウッズを活動拠点にしている、憧れの有名写真家にアポなしで(!)会いに行って教えを乞おう、という計画を立てた。ナショナル・ジオグラフィックなどで活躍する世界的な写真家だ。しかも、その写真家の自宅付近まで、カヌーで辿り着こうというのだ。

 

この本、最初は「アメリカでのカヌー旅の描写を中心とした、よくあるタイプの冒険本なのかな」という気持ちで購入したのだが、読み進めていくと、いい意味で裏切られた。水上の旅だけでなく、その旅が終わった後の展開も、非常に読みごたえがあるのだ

 

もちろん、本の前半は、ポーテージを含むカヌー旅について、歴史的背景なども含めて、これ以上なく鮮明に旅の様子が描かれている。

例えば、最初にアウトドア専門店で、カナディアン・カヌーかシーカヤックかのどちらかを選ぶ描写。それぞれのメリット・デメリットなどが詳しく説明されていて興味深い。

そこから湖上の旅がはじまる。

長い水上の移動や、毎日のキャンプ・調理の様子美しい朝焼けの風景描写にワクワクする。一方、蚊の襲来荒く波立つ湖面への対処も必要になってくる。

ビーバーダムハクトウワシの巣の撮影、釣りの描写も楽しい。

時間が経つにつれ、少しずつ自然が体にしみこんでいく様子が心地良さそうだ。読書中は水上ソロ・キャンプ旅の勉強になると共に、脳内カヌー旅を存分に楽しむことができた。

 

しかし、この本は前半の水上の旅だけでなく、その後もすこぶる面白い。前半で示された様々なテーマや、著者の目標がどうなっていくのか・・・、気になってどんどん読み進めてしまうのだ。

たとえば、

・本の冒頭で、出会ったと書かれている有名写真家の弟子になれるのか?
・もうひとりの伝説の極致探検家とはどういう人なのか?
・オオカミの写真を撮りたいという夢もあったが、それは実現したのか?

そして、これらの疑問が想像以上に様々な方向に回収されていき、「こんな展開になっていくのか!」と、後半もさらに読書に熱中させられる。

 

旅で出会う人々から受ける数々の親切にも、ほっこりした暖かい気持ちになる。森のそばに住む人々のリアルな生活描写も、その場の情景が目に浮かぶほど具体的で楽しめた。

 

著者の写真撮影に試行錯誤する様子も描かれている。どういう被写体や風景を、どういう角度・構図で、どんな時間帯に、どういうカメラ設定で撮ればいいのか──読書の過程で、写真撮影にも興味が湧いてくる。冒頭に掲載された数多くの写真も、読後に再度眺めると、違うように見えてくるのがおもしろい。

 

そして旅の終わりに近づいたころ、予想もしていなかった、ある大きな出来事に遭遇する。この出来事が、読書の最後に緊張感とドキュメンタリーならではの生々しさを与える。

ネタバレになるのでこれ以上語らないが、旅がどう進展していくのか、ぜひ読んで確かめてほしい!

それにしても、若いころの著者の、まぶしいくらいの情熱に魅了される。同年代の20代前半の人にも読んでほしいが、そんな時代をとっくに過ぎ、日々の慌ただしい生活にヘトヘトになっている皆様にも、ぜひ読んでほしい。青春の心のほとばしりを感じながら、水上旅の開放感を味わうことができるはずだ。

 

👉 Amazonで見る『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ

 

 

実際のカヌー・ルート

なお、北米で、本書のようなカヌー旅は(冒険家のような人々のみならず)、広く一般の人々にも親しまれているアクティビティだ。

例えば、下のようなウェブサイトやガイドブックに、多数のカヌー・コースが掲載されている。1~3日くらいの初心者コースもあるので、アメリカやカナダへの旅行中に、カヌーやカヤックを借りてチャレンジしてみてもいいかもしれない

 

■ウェブサイトの例(※本書の舞台となったエリアの場合)

BWCAW Paddle: Fall Lake Campground to Moose Lake [CLOSED]
• Permit Information: A permit is required to enter the Boundary Waters Canoe Area Wilderness. For more information, please visit: • Fire Closure: This area is...
Canoe Trip Routes: Boundary Waters and Quetico Park
Canoe trip routes for the Boundary Waters Canoe Area and Quetico Provincial Park from Canadian Waters Outfitters, Ely, MN.

 

■ガイドブックの例(※カナダのオンタリオ州の場合)

たとえば、カナダのオンタリオ州であれば、以下のようなガイドブックに数多くのカヌールートがリストアップされている。ルートごとに、マップ入りで詳細な説明がなされているので非常に便利だ。カナダやアメリカ北部に行く際には、訪れる地域のカヌー・ガイドブックを入手し、カヌー旅に出かけてはみてはいかがだろうか。

👉 Amazonで見る『Top 70 Canoe Routes of Ontario

 

 

読書中におすすめの音楽

最後に、本書を読む際のBGMとして、Dan Gibsonの「Canoe Country」というアルバムを全力でオススメしたい。北米での静かなカヌー旅を想像させる音楽描写として極めて完成度が高い。アコースティックギターの演奏をメインにした平和でまったりとした音楽と、森&パドルの環境音に癒されながら、読書に没入してほしい。

👉 Amazonで見る『Canoe Country

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました