David Plowden写真集で味わう、消えゆくアメリカの風景

写真集『A Handful of Dust』『Commonplace』『Imprints』(David Plowden)レビュー・感想

 

David Plowden『Commonplace』(1974)より Zortman, Montana: 1973。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

 

立ち寄れなかった風景

列車の旅をしていると、車窓の外にふと気になる風景が現れることがある。観光地でも有名な町でもない。線路の脇にぽつりと現れる、小さな町の一角だ。

古びた建物の並び、色あせた看板、町外れの静かな空気。ほんの数秒の出来事なのに、「なんだかいい場所だな」と感じる瞬間がある。

しかし列車は止まらない。
その町に立ち寄ることもない。

景色はすぐに後ろへ流れていき、やがてどこだったのかも思い出せなくなる。それでも、あの町角の雰囲気だけは、なぜか記憶のどこかに残っている。

そんな経験はないだろうか?

 

アメリカをロードトリップしているときにも、同じような瞬間はよく訪れる。

目的地へ向かって車を走らせていると、遠くに小さな町が見える。通りの雰囲気が妙に良さそうで、少し気になる。だがそこへ行くにはナビの示すルートを外れ、小さな道を曲がらなければならない。

結局そのまま通り過ぎてしまうことが多い。

 

あとになって、ふと思う。
「あの町、行っておけばよかったな」と。

 

写真家David Plowdenの写真を見ていると、そんな「立ち寄れなかった風景」が、目の前に静かに立ち上がってくる。

たまたま迷い込んだ町が、こんな鄙びた風情を醸していたら本当に最高だろう──そんな気持ちになる写真ばかりなのだ。

小説や映画の中で思い描いてきた、アメリカの田舎町の寂寥感、古びた建物の気配、人の姿は見えないのに確かに暮らしの痕跡が残る空気。

Plowdenの写真には、そうした「見逃してしまった町」「立ち止まれなかった風景」を、あとから静かに味わわせてくれる魅力がある。

 

David Plowden『A Handful of Dust』(2006)より Wellman, Iowa (2004)。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

 

 

この記事で紹介すること

この記事では、そうした「立ち寄れなかった風景」の記憶をそっと掬い上げてくれる写真家、David Plowdenについて簡単に触れたうえで、僕が持っている三冊の写真集──『A Handful of Dust』『Commonplace』『Imprints』──を順に紹介していきたい。

作品を細かく分析するというよりも、それぞれの本に並ぶ風景の雰囲気や、ページをめくりながら感じたアメリカの田舎町の空気を、いくつかの写真とともに静かに味わっていくつもりである。

Plowdenの写真をまだ見たことがない人にも、「ああ、こんな風景が広がっているのかもしれない」と、旅の途中でよぎったあの感覚を少しでも思い出してもらえたらうれしい。

 

 

 

 

David Plowdenという写真家

David Plowdenは、1932年にボストンで生まれたアメリカの写真家。イェール大学卒業後、鉄道会社で働いた経験などを経て、アメリカ各地を旅しながら写真を撮るようになった。若い頃にはMinor WhiteやNathan Lyonsに学び、鉄道写真家O. Winston Linkの助手も務めている。

Plowdenの大きな特徴は、蒸気機関車、橋、工場、港、そして地方の小さな町など、変わりゆくアメリカの風景を長年にわたって記録してきた点にある。いわゆる派手な観光地ではなく、産業や暮らしの痕跡が残る場所に強く惹かれてきた写真家だ。

彼の写真は多くがモノクロで、構図も端正で静かである。だがその静けさの中には、人が働き、暮らし、時間を重ねてきた気配がにじんでいる。まさに「消えゆくアメリカ」を記録してきた写真家の一人と言ってよいだろう。

その仕事は高く評価され、1968年にはグッゲンハイム・フェローシップを受賞。作品はシカゴ美術館やスミソニアン協会、アメリカ議会図書館などにも収蔵されている。

派手さはない。しかし、名もない町や古びた建物の中に、アメリカという国の記憶を静かに刻みつけてきた写真家である。

 

 

 

 

『A Handful of Dust: Photographs of Disappearing America』──消えゆくスモールタウンのアメリカ

 

A Handful of Dust: Photographs of Disappearing America(David Plowden)表紙画像(出典:Amazon商品ページ)

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『A Handful of Dust: Photographs of Disappearing America』は、2006年にW.W. Nortonから刊行された写真集である。

Plowdenが長年撮り続けてきたアメリカ各地の小さな町を改めて訪ね歩き、77枚のデュオトーン写真にまとめた一冊で、「Photographs of Disappearing America」という副題どおり、移ろいつつある風景への静かな挽歌のような本になっている。

 

ページをめくるとまず目に入ってくるのは、時が止まったようなスモールタウンの通りだ。車も人影もほとんど写っていない、がらんとした交差点。古びたブロック塀の角、電柱と電線──そんな「町の片隅」の光景が続いていく。

どこかで見たことがあるようで、しかし具体的な地名は思い出せない。旅の途中、車窓から一瞬だけ目にして、そのまま通り過ぎてしまった小さな町の記憶が、ここでは静かに留め置かれている。

 

David Plowden『A Handful of Dust』(2006)より Grenville, New Mexico (1971)。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

モノクロのデュオトーン印刷は非常に繊細で、壁のひび割れや剥がれかけたペンキ、アスファルトの傷んだ質感、路肩に伸びた雑草の影までもが細かく描き出されている

建物のファサードや看板、扉や窓だけをぐっと近くから写した写真も多いのだが、そこでは遠景では拾いきれない「人の使用した痕跡」がはっきりと見えてくる。

色褪せ、歪み、よれ、汚れ、からまりつく蔦やゴミの小片──そうしたものが白黒の濃淡の中で立ち上がり、まるで古い茶器を手に取って、釉薬のムラや擦り傷を指先でたどるような感覚で味わうことができる。

 

David Plowden『A Handful of Dust』(2006)より Watrous, New Mexico (1972)。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

モチーフは町の中心部だけではない。町はずれの草地にぽつんと建つ一軒家、畑の向こうに立つ廃れたバーンや、穀物を貯蔵するグレイン・エレベーターのような農業施設など、アメリカの産業を支えてきた建物もたびたび登場する。

中にはすでに廃墟同然となり、雑草に飲み込まれつつある建物も多い。崩れかけた屋根や割れた窓、足元の草むらをじっと見ていると、「かつてここにはどんな暮らしがあったのだろう」と自然に想像してしまうような、静かな寂寥感が漂っている。

 

David Plowden『A Handful of Dust』(2006)より Abandoned Grain Elevator, Chicago, Illinois (1983)。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

華やかな絶景ではなく、「何も起こっていないように見える場所」をここまで魅力的に見せてくれる写真集は、そう多くないと思う。アメリカの鄙びたスモールタウンの空気が好きな人にとって、この『A Handful of Dust』はほとんど理想的な一冊であるはずだ。

旅の途中で立ち寄れなかった町、名前も知らないまま通り過ぎてしまった風景。その断片的な記憶を、ページをめくりながら静かに「回収」していくような時間を味わわせてくれる写真集である。

 

A Handful of Dust: Photographs of Disappearing America(David Plowden)表紙画像(出典:Amazon商品ページ)

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『Commonplace』──ありふれた風景の中のアメリカ

 

Commonplace(David Plowden)表紙画像(出典:Amazon商品ページ)

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『Commonplace』は、1974年に出版されたDavid Plowdenの写真集である。すべてモノクロ写真で構成されており、彼が1960年代から70年代初頭にかけて各地で撮影したアメリカの風景が収められている。

タイトルの Commonplace が示す通り、本書の主題は特別な場所ではなく、どこにでもある日常の風景である。

収められているのは、当時のアメリカの町や風景だ。1974年という出版年を考えると、現在から見ればすでに半世紀前の光景であり、写真集全体がまさに「古いアメリカ」の空気で統一されている。

 

David Plowden『Commonplace』(1974)より Anaconda, Montana: 1973。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

写真にはスモールタウンや田舎の風景が多いが、それだけではない。少し規模の大きい中堅都市の通りや郊外住宅地の景色なども登場し、アメリカの町の多様な姿が写し取られている。

また、本書の魅力は、単に寂れた風景ばかりを集めたものではない点にもある。古びた町並みや人影のない通りの写真がある一方で、当時の現在進行形の町の姿や、まだ新しく整った郊外住宅の風景も現れる。

そのコントラストによって、読者はより広い範囲のアメリカの風景を眺めることになる。

モーテルやガソリンスタンド、交差点や駐車場、広い通り、列車の線路、農業施設や工場、自然の中の一軒家、そして田舎の小さな集落。被写体は実に多彩だ。しかし、どれもがどこか「アメリカらしい」風景である。

 

David Plowden『Commonplace』(1974)より Harrison County, West Virginia: 1974。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

そして何より、この写真集に写されているのは、特別な景色ではない。タイトルの通り、どこにでもありそうな、何でもない場所ばかりだ。だがPlowdenの写真は、そうしたありふれた風景の中に静かな風情を見つけ出している。

多くの写真には人の姿がなく、町や通りは静まり返っている。その静けさの中に、建物や道路、看板といったものが淡々と存在している。そんな風景を眺めていると、まるで時間の流れが少し緩やかになったような感覚になる。

 

David Plowden『Commonplace』(1974)より Stratton, Colorado: 1973。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

さらに、この本そのものの佇まいも魅力の一つだ。1970年代の写真集らしい古い装丁や紙の質感も味わい深く、ページをめくるたびに独特の空気が漂う。

気がつくと、ついまた手に取って眺めてしまう。そんな不思議な魅力を持った写真集である。

 

Commonplace(David Plowden)表紙画像(出典:Amazon商品ページ)

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『Imprints: A Retrospective』──労働の風景が刻みつけたアメリカ

 

Imprints: A Retrospective(David Plowden)表紙画像(出典:Amazon商品ページ)

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『Imprints: A Retrospective』は、1997年にBulfinch Pressから刊行されたDavid Plowdenの回顧写真集である。

David Plowden自身の序文とテキストに加え、アメリカ文化史家Alan Trachtenbergによる導入文が付されており、約40年にわたる仕事をまとめた一冊となっている。

内容は白黒写真で構成され、Plowdenが長年撮り続けてきたアメリカの産業的・地方的風景が幅広く収められている。回顧集という性格もあり、彼の仕事全体を俯瞰できる本でもある。

 

上で紹介した二冊と大きく異なるのは、この本の中心にあるのが「仕事の風景」だという点だ。

ページを開くと、まず目に入ってくるのは、今となってはほとんど見ることのない蒸気機関車やスティームボートの姿、その仕事現場の情景である。

煙を上げて走る機関車、貨物を運ぶ船、鉄道のヤードや作業員のいる現場…。そこには、かつてアメリカの産業と物流を支えていた仕事の気配が、濃密に刻まれている。

さらに、スティール・ミルの内部、バーンの骨組み、穀物エレベーター、石油精製所といった施設が、機械や配管、構造物のアップを交えながら写し取られている。

整備工場や駅舎、郵便局など、インフラを支える建物も数多く登場し、それらが整然と並ぶことで、一冊全体から「労働者の国」としてのアメリカの姿が立ち上がってくる。

 

David Plowden『Imprints』(1997)より Steel Mill, East Chicago, Indiana, 1979。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

また、後半には「Wasteland」と題された章もあり、そこでは廃棄物の山、工場の煙、役目を終えて放置された産業施設など、荒廃した風景が登場する。

生きた産業の風景と、その終着点としての荒れた土地や朽ちた施設。そのコントラストによって、産業の栄光と衰退、その両方を静かに見つめているような感覚になる。この「寂れて荒れた感じ」も、本書の大きな見どころだ。

 

David Plowden『Imprints』(1997)より Geronimo, Oklahoma, 1969。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

全体として、他の二冊以上に「記録写真集」としての性格が強く感じられる。

ある産業や技術、仕事の現場が、どのような形で存在していたのか──その具体的な姿を、冷静で誠実な視線で記録している。一通り見終えたあとには、アメリカという国を支えてきた労働者の風景が、静かに身体に染み込んでくるような感覚が残る。

 

とはいえ、この本は「産業写真集」だけに終わっているわけではない。

Plowdenらしく、スモールタウンの通りや、自然に囲まれた一軒家、人の姿のない静かな町角といった写真も随所に挟まれている。工場や機関車の写真を眺めた後で、ふと現れる小さな町の風景に、どこかホッとするような郷愁がある。

人のいないノスタルジックな風景や、静かな時間の気配を好む人にとっても、十分に味わい深い一冊だろう。

 

David Plowden『Imprints』(1997)より Bosler, Wyoming, 1974。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

産業の力強さと、その終わりの寂しさ。そして、その周りにひっそりと広がる町や家々の佇まい。『Imprints: A Retrospective』は、そうしたアメリカのさまざまな層を、一本の線でつなぎ直して見せてくれるような写真集である。

 

Imprints: A Retrospective(David Plowden)表紙画像(出典:Amazon商品ページ)

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立ち寄れなかった風景を、あとから旅する

「あの町、少し良さそうだな」と思いながらも、そのまま通り過ぎてしまう──そんな「立ち寄れなかった風景」は、誰の旅の記憶にも残っているのではないだろうか。

David Plowdenの写真は、まさにそうした風景で満ちている。アメリカ各地で撮影された写真を眺めていると、まるで静かなロードトリップをしているような気分になる。

そこに写っているのは、特別な場所ではない。どこにでもある町角や建物、そして人の気配の残る風景だ。けれど、その何でもない風景を見つめているうちに、ふと「これこそアメリカの風景だ」と感じられてくる。

僕にとってDavid Plowdenの写真集は、そんな失われた風景の記憶をそっと回収してくれる存在なのである。

 

David Plowden『A Handful of Dust』(2006)より Owego Township, Livingston County, Illinois (2003)。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© David Plowden

 

 

 

 

【参考情報】

  • David Plowden. “About.” https://www.davidplowden.com/about
  • Beinecke Rare Book & Manuscript Library, Yale University. “David Plowden Photographs and Papers.” https://beinecke.library.yale.edu/collections/highlights/david-plowden-photographs-and-papers
  • Wikipedia. “David Plowden.” https://en.wikipedia.org/wiki/David_Plowden
  • Penguin Random House Canada. “A Handful of Dust.” https://www.penguinrandomhouse.ca/books/399842/handful-of-dust-by-david-plowden/9780393060331
  • John Howell Books. “Commonplace – David Plowden.” https://www.jhbooks.com/pages/books/204230/david-plowden/commonplace
  • Robert Gavora Fine & Rare Books. “Imprints: David Plowden – A Retrospective.” https://www.robertgavora.com/pages/books/47363/david-plowden/imprints-david-plowden-a-retrospective
  • Buffalo AKG Art Museum. “Imprints: Photographs by David Plowden.” https://buffaloakg.org/art/exhibitions/imprints-photographs-david-plowden

 

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