『Days Gone』(SIE Bend Studio開発/2019年)
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※リマスター版『Days Gone Remastered』(PS5/ダウンロード版)↓
『Days Gone』について
ゲーム紹介:『Days Gone』とは?
『Days Gone』は、パンデミック後の終末世界──アメリカ・オレゴン州を舞台に、元アウトローのバイカー、ディーコン・セントジョンが「フリーカー」と呼ばれる感染者や敵対勢力に立ち向かう、三人称視点のアクションアドベンチャーゲームだ。
森林や山岳、荒野まで広がるオープンワールドには四季と天候の変化があり、数十から数百体規模のフリーカーの大群との戦闘が緊張感と迫力を生み出す。
戦いの裏では、終末世界で生き延びる人々の葛藤や人間関係の揺らぎなども描かれ、派手なアクションの奥に深い余韻が漂う作品となっている。
2025年4月にはPlayStation 5向けに『Days Gone Remastered』が発売され、グラフィックの向上やDualSense対応により、より滑らかで没入感のある体験が可能になった。
個人的には、荒れ果てたアメリカの終末世界を鮮やかに描き出したオープンワールドの世界観、人間関係や社会の力学を丁寧に表現したドラマ、そして序盤から終盤へと緩やかに高まっていくストーリー展開に、大いに魅了された。
客観的に「傑作」と評するよりも、「大好きな作品!!」と熱く感情で語りたくなるような、強い愛着を抱かせるゲームだった。
今回は、『Days Gone』を「木」という視点で見つめ、その魅力を掘り下げていく。
単に背景として森があるだけではなく、伐採地や製材所、薪のある暮らし、森林火災の監視塔など、物語や世界観に木が深く関わっているのが特徴だ。
あわせて、他の映画や本での「木」の描かれ方や、現実のオレゴン州における森林や林業の歴史も交えながら、ゲーム世界をより立体的に味わう視点を紹介していく。
初めての人も、再プレイの人も、「木」という視点で見れば、これまで見えていなかった景色や物語が広がっていくだろう。
その入り口として、この記事を楽しんでほしい。
なお、大きなネタバレは避けているが、ゲーム後半の「製材所」での出来事には軽く触れている。発売前から公式プロモーションで公開されていた場面ではあるが、完全に”事前情報ゼロ”で遊びたい人は、ここから先の閲読を控えてほしい(※その製材所のスクリーンショットも、数点貼り付けている)。

『Days Gone』より:森を歩くディーコン © Bend Studio
終末世界における「木」の重要性
各種作品に描かれる「木」の役割
ポストアポカリプスを描いた終末世界や、自然に囲まれた辺境の地、戦争などで文明から切り離された環境を舞台にした作品では、「木」がしばしば印象的に描かれる。
こうした状況下において、僕は木の描かれ方をじっくり観察するのが好きだ。
というのも、そうした文明の支えが届かない世界では、木こそがもっとも身近で、かつ多機能な資源だからだ。
まず、燃料としての木の役割は決定的に重要だ。ガスや電気といったインフラが使えない環境では、料理や暖房のための熱源として、ほぼ唯一といってよい選択肢が木なのだ。
さらに、生活に必要な道具、住居や防壁といった構造物の建築、果ては簡易な乗り物に至るまで、木材は多くの用途を担っている。
木のある/ないによって、作品が描こうとする世界の現実味──もっというなら、「生きることへの想像力」が垣間見える気がする。
僕が大好きな映画や本でも、そういった木の利用シーンは頻繁に、しっかりと表現されている。
たとえば、『足跡はかき消して(Leave No Trace)』や『再生の地(Land)』、『ザ・ロード(The Road)』などの、大自然や終末世界を鮮やかに映し出した映画では、斧で薪を割ったり、焚き火で暖をとったり、調理をしたりする様子が、細やかに描かれている。
元寇をモチーフとしたゲーム『Ghost of Tsushima』では、モンゴル兵の拠点周辺の森が伐られており、拠点建築や燃料確保のために木を利用していた様子が、さりげない描写から読み取れる。

『Ghost of Tsushima』より:伐採され切り株だらけになった海辺の拠点 © Sucker Punch Productions
さらに、現実を背景にした作品では、「木」の存在はより具体的に、かつ深く描かれる。
たとえば北海道の辺境を舞台に、ヒグマの恐怖を描いたコミック『野性伝説 羆風』では、極寒の中で夜通し薪を焚かなければ命の危険があるという現実が語られる。
また冬になると、川の上に「氷橋(すがばし)」を架けるために、まず木を伐るところから始まる。この橋がなければ町へ出ることもままならず、木は命綱の一部といえる。
カナダのユーコン準州を舞台にした映画『狩人と犬、最後の旅』では、丸太小屋を一から作る過程がじっくり描かれる。白樺(バーチ)でできたカヌーを、薪の火で煮込んだ樹脂で修繕するシーンも印象的だ。
木に支えられた自給自足の生活は、やがて森林伐採を進める木材会社によって脅かされていく。森が消えると、そこに生きる動物たちも姿を消す。木を失うことは、暮らしそのものを失うことと同義なのだ。
ノンフィクションの『山に生きる人びと』という本では、山の人々がどのように木とともに生き、どんなふうに生活を成り立たせていたかが、さまざまな実例を通じて語られている。
たとえば、伐った木材や、雑木を焼いて作った灰(※染色などに使用)を海辺の村に持っていき、その代わりに、薪で煮詰めた海水から作られた塩を受け取るといった、木を介した交易があったという。また、鉄の精錬にも大量の木炭が必要で、山がすっかり禿げてしまった例も紹介されている。
塩や鉄といった、暮らしの根幹を支える物資でさえ、木がなければ成り立たなかったということが、静かに、しかし力強く伝わってくる。
こうした作品に触れるたび、「木があるからこそ、暮らしが成り立っていた」という事実の重みを実感する。
『Days Gone』で丁寧に描かれた「木」の重要性
こうした “木に依存した生活” のリアリティは、『Days Gone』の世界にも丁寧に息づいている。
このゲームには、大規模な拠点から廃屋のようなキャンプ跡地まで、さまざまな生活の痕跡が広がっているが、どこを訪れても薪の山や焚き火、ストーブが自然な形で配置されている。
実際、キャンプの中には斧で薪を割っている住人も多く、彼らが「薪が尽きることはなさそうだ。せめてもの救いだな」とつぶやく場面もある。終末世界において、“薪がある”ということが、数少ない安心材料の一つなのだと伝わってくる。

『Days Gone』より:薪割りをするキャンプの住人 © Bend Studio

『Days Gone』より:薪と簡易ストーブが置かれた小屋 © Bend Studio
最初に訪れるコープランドのキャンプは、“ツリーハウス”のような構造をしており、崖や大木に支えられた木造の建物で人々が暮らしている。加えて、外周は丸太の柵で囲まれており、防衛と生活がともに木に支えられていることがよくわかる。
このように、木材を使った防壁や拠点構造は、他のキャンプや集落でも繰り返し登場する。高く積まれた丸太の塀や柵、見張り塔など、どれもが木で作られており、「敵から身を守る」という行為そのものが、木という資源を前提に成立しているのだ。

『Days Gone Remastered』より:巨木を中心に築かれたツリーハウス型のキャンプ © Bend Studio
一方で、作中には「木があるからこそ危険になる」として、キャンプ周辺の森林を焼き払った拠点も存在する。
森林が生い茂っていると視界が遮られ、そこにフリーカーや敵対勢力が潜むリスクがあるからだ。実際、フリーカーの巣は木の枝や倒木などを使って作られており、森は “敵の拠点” にもなり得る。
とはいえ、そのキャンプでも、周囲にはすでに高い丸太の塀が築かれ、内部には大量の木材がストックされている。製材設備や木工用具も保持しており、当面は伐採をやめても十分にやっていけるという見通しが立っているのだろう。
つまり、木が持つリスク(敵の潜伏)を減らす一方で、その恩恵(資材や燃料)は事前に確保しておく。「木への対処」と「木への依存」が、戦略的に両立されているというわけだ。
このように、『Days Gone』では、電気やガス、金属やプラスチックといった近代的な資源が十分に得られない状況において、木がいかに人間の生活を支える根幹的な存在であるかが、明言されることなく、しかし非常に丁寧に描かれている。
だからこそ、この終末世界はどこか“リアル”であり、僕たちが今暮らしている現実と地続きの未来に感じられるのだ。
オレゴン州における「木」の存在感
オレゴン州における森林・林業の重要性
『Days Gone』では、アメリカのオレゴン州における木の存在感、そして “かつての木材産業の重要性” が静かに、しかし確かに描かれている。
舞台となったオレゴン州は、全米でも有数の森林資源を抱える地域であり、その歴史と経済は木材産業と深く結びついてきた。
州全体の約48%──およそ3,000万エーカー(約12万平方キロメートル)を森林が占めており、特にダグラスファー(ベイマツ)などの針葉樹(ソフトウッド)の生産では、アメリカ国内で長年トップの地位を維持している。
住宅建築に使われる構造用木材(いわゆるツーバイ材)や梁、フローリング、ウッドデッキ、ドア・窓枠など、建築に必要なソフトウッド製品の多くを、オレゴン州は全米に向けて供給してきた。
このような背景を持つオレゴン州には、製材業の記憶が街の名前や景観にまで刻まれている。
たとえば州最大の都市ポートランドは、19世紀半ばの急速な市街地拡張で森を切り開いた際に切り株が長く残ったため、かつて “Stumptown(切り株の町)” と呼ばれたほどなのだ。
また、オレゴンの森は産業基盤であると同時に、登山やハイキング、滝めぐり、クライミングといったアウトドア観光の舞台でもある。
PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)の州内区間や、コロンビア・リバー・ゴージ(コロンビア川峡谷)、クレーター・レイク周辺など、森そのものを楽しむために人々が集まる場所が豊富にある。
こうした地理的・歴史的な文脈を知っていると、『Days Gone』の風景の隅々にまで、“木”という存在が染みついていることに気づかされる。

オレゴン州ベンド周辺の森で、著者が乗馬中に撮影。『Days Gone』を生んだ開発会社の拠点でもあるこの地には、ゲーム世界と重なる美しい風景が広がっていた。
『Days Gone』における森林や「かつての林業」の描かれ方
『Days Gone』では、森林に囲まれたオレゴン州の空気感や、かつて盛んだった製材業の痕跡が、風景や施設、ミッションの舞台として随所に反映されている。
ゲームはカスケード地域の森に囲まれたエリアから始まる。
密生する針葉樹と起伏のある地形、そして雨や霧の多い気候が重なり、視界は常に限られ、鬱蒼とした森の中にいる感覚が見事に表現されている。
画面越しにまで伝わってくるような湿り気を帯びた空気、無数の倒木、沢の水が放つみずみずしさ──そうした要素が一体となって、森は恐ろしくも美しい姿を見せている。

『Days Gone』より:朝日が差し込む静かな森の小道 © Bend Studio
また、マップを進むと、ときおり木材運搬トラックが、積まれていた丸太とともに、放置されている光景にも出くわす。野ざらしになったその姿は、かつてこの地域が伐採地帯であったことを、さりげなく物語っている。

『Days Gone』より:丸太を満載した木材運搬トラック © Bend Studio
ディーコンたちが最初に拠点とするのは、森林火災を監視するための監視塔だ。
相棒ブーザーと共に序盤の隠れ家として過ごす場所であり、周囲の景色を見渡せる高さから、敵の拠点などから上がる煙を目にすることもできる。
現実のオレゴン州でも、森林火災は現在進行形の深刻な問題であり、州森林局を中心に、監視塔やカメラネットワークによる山火事監視体制が今も維持されている。
『Days Gone』において、監視塔が最初の生活拠点として設定されているのは、そうした土地のリアリティに根ざした演出といえるだろう。

『Days Gone』より:序盤の拠点となる森林火災監視塔 © Bend Studio

『Days Gone Remastered』より:森林火災の危険度を示す看板。 © Bend Studio
作中では「伐採所」や「製材所」といった施設も、印象的な舞台として繰り返し登場する。
前半に訪れる伐採所では、切り株が散在するエリアに、木材の倉庫などが隣接している。社会見学のような視点で構造を観察していると、この地域でかつて営まれていた木材産業の姿が見えてきて興味深い。

『Days Gone』より:丸太が積み上げられた伐採所 © Bend Studio
終盤のクライマックスのひとつにあたる「古い製材所」での大群との戦いは、ゲームとして非常に盛り上がるシーンだが、大群を倒したあとにゆっくりと施設を見てまわると、これが実に興味深い。
川辺の丸太が、かつて製材所内に引き上げられていたであろう構造。建物の内外には製材機のような設備や、乾燥・貯蔵用と思われる木材置き場もある。
もちろんゲームである以上、完全な現実の再現ではないだろう。だが、それでも「ここで人々が木を加工し、生活の糧を得ていたのだ」と想像させてくれる説得力がある。
製材所を隅々まで観察していると、いつの間にか「現実の林業の現場ってどうなっているのだろう?」と、ゲームの外に興味が広がっていく。
このように、『Days Gone』は “木のある風景” を通して、現実のオレゴン州が持つ土地性と、その中で営まれてきた人々の暮らしの痕跡を、静かに、そして力強く描いているのだ。

『Days Gone Remastered』より:丸太や板材が積み上げられた「古い製材所」の作業場 © Bend Studio
もっと観たかった点について
「ディーコンが製材業の労働者だった」設定
これだけ終末世界における「木の存在感」が巧みに描かれている『Days Gone』だからこそ、僕の中でふと浮かんできた“もしも”の設定がある。
それは──ディーコンがパンデミック以前、木材関連の仕事に就いていたらどうだっただろう?という想像だ。
たとえば、あの「古い製材所」でディーコンが働いていたという設定。
パンデミック前のある日、製材所での仕事風景が回想で描かれたり、同僚との会話があったりする。その後、フリーカーの巣と化したその製材所で、かつての同僚がフリーカーになって現れる──。
そんな演出があったなら、戦いの場面に「ただの敵」ではない過去の記憶と痛みが重なり、物語にさらに深い陰影が生まれただろう。
しかも、作業中のやりとりや風景の中で、オレゴン州の林業についての会話が挟まっていれば、土地に根ざしたドラマとして、より強くこの物語が地に足をつけていたはずだ。
序盤の舞台であるカスケード地域にある伐採所に、仕事で出かけるような描写も加えられていたら、地理的スケールも広がり、「土地の上で働く男」としてのディーコンに、いっそうの厚みが加わったに違いない。

『Days Gone』より:ゲーム後半に登場する「古い製材所」。ディーコンが以前ここで働いていた設定があれば、この風景にさらに哀愁が漂っただろう。© Bend Studio
その設定のリアリティは?
「バイカーでありながら、日中は伐採や製材の仕事をしていた」──そんなディーコン像にも、十分なリアリティがあると思う。
まず、土地としてのリアリティだ。
先にも述べた通り、オレゴン州の森林は州土の半分近くを占め、林業は今なお重要な地場産業であり、文化的アイデンティティの一部でもある。州内には、製材所や伐採所が点在し、何らかの形で木に関わる仕事をしている住民も多い。
ディーコンがその一員だったとしても、ごく自然な設定として受け入れられるはずだ。
さらに、キャラクターとしての整合性もある。
ディーコンは「戦闘的」「頑丈」「無骨で実直」という性格で、肉体労働を嫌うような人物ではない。実際、ゲーム中でもバイクの整備、アイテムの作成、銃器の扱いなど、手を動かして生きていくことに慣れた男として描かれている。
製材所の作業は重労働で機械を扱うことも多く、軍人やバイカー上がりのディーコンの働く姿が容易に想像できるのだ。
この “もしも設定” がもたらしたかもしれない深み
この “もしも設定” があれば、『Days Gone』の世界はさらに土地の匂いを強めただろう。
製材所で働いていたディーコンが、かつての職場で大群と戦い、同僚だった人間がフリーカーとして立ちはだかる──。それは、オレゴン州の林業史と終末世界の現実が一点で交差する瞬間だ。
同時に、林業に支えられた日常をパンデミックで失ったという喪失感が物語に滲み、ディーコンの旅にさらなる深みと共感が宿るだろう。
『Days Gone』は、人間と社会の残響を丹念に描いた作品である。その懐の深さが、こうした “ありえたかもしれない物語” にも命を吹き込むのだと感じるのだ。
記事のまとめ
この記事では、『Days Gone』における「木」の重要性や存在感を、さまざまな角度から紹介してきた。
これからゲームを始める人も、再びプレイしようと思っている人も、「木や森林の描写」「木材で作られた建物や施設」「薪の使われ方」「かつての林業の痕跡」といった要素に注目してみてほしい。
そんな視点を一つ加えるだけで、もともと奥深く、魅力に満ちあふれた『Days Gone』が、さらに味わい深く感じられるはずだ。

『Days Gone』より:道路を塞ぐ倒木と針葉樹。森林の雰囲気や林業の痕跡という大きな視点のみならず、「目の前の木の存在感や手触り感」という身体的な感覚も、じわっと体に染み込んでくるゲームだ。 © Bend Studio
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【参考リンク】
https://worldpopulationreview.com/state-rankings/lumber-production-by-state
https://oregonforests.org/publication-library/oregon-forest-facts-2025-26-0
https://oregonforests.org/no-1-softwood-lumber
https://www.oregon.gov/biz/programs/homeareas/byboregon/targetindustries/pages/forestry.aspx
https://www.myoregon.gov/2022/07/21/fire-lookout-for-oregon-department-of-forestry-provides-early-warning-fire-detection/
https://daysgone.fandom.com/wiki/Deschutes_County_Militia
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