『Jusant』(DON’T NOD / 2023年)レビュー・感想
『Jusant』は現在、PS5やPC(Steam)などでプレイできる。
・PS5(PlayStation Store)
・Steam
はじめに──静けさの中で深く響いた旅
巨大な岩の塔を、ひたすら登り続ける。
そこには敵もいない。
あるのは、風の音と、鳥の声、そしてかつて人が生きていた痕跡だけだ。
『Jusant』は、静けさの中を進み続ける体験が印象的な作品である。
ロッククライミングの手触りと、雄大な風景、そして失われた文明の気配が重なり合い、独特の余韻を生み出している。

『Jusant』より © DON’T NOD / Focus Entertainment
塔の各所には、かつてそこに暮らしていた人々の痕跡が点在している。
手記や壁画といった断片的な記録を手がかりに、過去の出来事を少しずつ想像していく構成だ。
ゲームプレイの中心となるのは、岩肌を一歩ずつ登っていくロッククライミングのパートだ。
派手さはないが、身体を使って少しずつ高度を上げていく感覚には、このゲームならではの確かな没入感がある。
ウォーキング・シミュレーターのように淡々と進んでいく時間の中で、雄大で美しい風景や、ノスタルジーを強く感じさせる文明の痕跡に浸り続けることができる。
プレイ時間は約5〜6時間といわれているが、僕自身は風景を眺める時間が長く、実際にはその倍以上の時間をかけてゆっくり味わった。
静かな作品を好む人、風景や世界観に浸るのが好きな人にとって、印象に残る体験になるだろう。

『Jusant』より © DON’T NOD / Focus Entertainment
この記事で語りたいこと
本記事では、ゲームプレイの詳細や攻略についてはほとんど触れない。
またネタバレをできるだけ避けるため、作中に登場する象徴的な建造物や装置などの具体的な仕掛けについても、必要以上には立ち入らない形で進めていく。
それよりも、
・ロッククライミングという行為の肌感覚
・雄大で美しい風景の印象
・過去の痕跡が漂わせるノスタルジー
・静寂の中に感じられる時間の流れ
といった、この作品ならではの体験的な側面を中心に語っていきたい。
また、物語の軸となる「過去に何があったのか」という点については、【ネタバレあり】の章に分けて考察していく。
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※本記事では物語のネタバレはできるだけ避けている。掲載している画像もゲーム前半の範囲に留めているが、本作の大きな魅力である「風景の空気」が伝わる程度に紹介している点、ご理解いただきたい。
ゲームの流れ・概要──断片から浮かび上がる物語
ゲームは、放浪の旅人のような少年の主人公が、乾いた大地を歩く場面から始まる。
周囲には、荒野の中に取り残された船の残骸が点在しており、かつて水が存在していたことを思わせる光景が広がっている。
やがて遠くに、天空へと続く巨大な岩の塔が姿を現す。
垂直に切り立ったその姿は、まるで自然の岩山のようでもありながら、よく見ると各所に人の手による構造物が組み込まれているのが分かる。

『Jusant』より:旅の始まり。これから登っていく巨大な塔を見上げる。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
プレイヤーは、この圧倒的な高さを持つ塔を、少しずつ登っていくことになる。
とはいえ、むき出しの断崖をいきなり登攀していくわけではない。
塔には、かつて人が暮らしていた痕跡が残っており、岩に刻まれた階段や足場、梯子のような構造物など、人が上へ進むための導線が各所に設けられている。
そうした人工的な構造と、岩肌を直接登るロッククライミングのパート、さらにロープを使って移動する場面などが組み合わさり、独特の移動体験が形づくられている。

『Jusant』より:ロッククライミングだけでなく、階段や梯子なども利用して上に向かう。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
塔の内部や崖沿いには、岩を切り開いて作られた住居のような空間が連なっている。
そこには、家具や生活用品などが置かれたままになっており、人が暮らしていた気配が静かに残っている。
こうした場所では、かつての住人たちが残した手記や手紙、張り紙などがあり、過去にこの場所で何が起きたのかが少しずつ浮かび上がってくる。
また、神殿のような遺構では、詩のような形式で記された言葉に触れる場面もある。
数ある記録の中でも、特にビアンカという人物の手記が、一つの軸として機能している。
主人公が登っているルートは、かつてビアンカも辿った道であることが示唆されており、彼女の言葉を読み進めていくことで、その足跡を追体験していくような感覚が生まれる。
この作品では、明確に整理されたストーリーが提示されるわけではない。
ビアンカをはじめとする人々の記録や、残された生活の痕跡を観察することによって、
・この場所で過去に何が起きたのか
・なぜ人々はいなくなったのか
・主人公はなぜ上を目指しているのか
といった点を、プレイヤー自身が自発的に考えていく構成になっているのだ。

『Jusant』より:塔の内側にある居住空間を隅々まで探索し、じっくり観察する。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
そして、塔を登っていく過程でも、大きな事件や劇的な展開が用意されているわけではない。
マップは上下方向に広く、脇道も多いため、あちこちを行ったり来たりできる。ただ、メインの道筋はほぼ一本道だ。
上へ、上へと、黙々と進み続ける体験そのものが、この作品の中心にある。
敵は登場せず、戦闘もない。
崖から落ちてしまうような強いストレス要素も抑えられており、安心して風景の中に身を置くことができる。
雄大な景色や、人が暮らしていた痕跡の静けさに触れながら、落ち着いた心持ちで少しずつ高度を上げていく。
本作は、そうした時間をゆったりと味わうことのできる作品である。

『Jusant』より © DON’T NOD / Focus Entertainment
手触りとしてのクライミング
ゲームプレイの中心となるのは、ロッククライミングのパートだ。
本作において、明確に“操作している手応え”を感じる場面は、ほぼこの部分に集約されている。
とはいえ、いわゆる本格的なクライミングシミュレーターのような難しさがあるわけではない。
どちらかといえば、「うまく攻略すること」よりも、「一歩ずつ登っていく感覚そのもの」を体験させることに重きが置かれている印象だ。
操作はシンプルで、R2とL2を交互に押すことで右手・左手を使って岩肌を登っていく。
途中では命綱となるロープを固定しながら進む場面もあり、どの地点でロープを設置するかを考える必要がある。
固定できる回数には限りがあるため、ルートの取り方を考える余地も用意されているが、強い緊張感を求められる作りではない。

『Jusant』より:赤い岩肌を黙々と登っていく。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
登る動作の感触も特徴的だ。
機械的にテンポよく進むというより、少しずつ体を引き上げていくような、わずかなもどかしさが残されている。
手が届きそうで届かない場所では、角度を変えたり、小さくジャンプしたりしながら、なんとか次の足場へと手を伸ばしていく。
操作が極端に難しいわけではないが、どこか完全には思い通りにならない感触があり、そのわずかな不確かさが「実際に登っている」ような身体感覚につながっている。
この一生懸命さのにじむ手触りは、『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』で、巨像やトリコにしがみつきながら登っていくときの感覚を思わせる部分がある。
デジタル的に軽快に進むというよりも、少しずつ高度を上げていく過程を丁寧に感じさせるバランスになっている。

『Jusant』より:「天井」を渡っていくようなオーバーハング。思わず指先に力が入る。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
本作では、常にロープによって安全が確保される仕組みになっており、失敗によって大きくやり直しになるようなストレスは抑えられている。
それでも、崖を登っている最中には思わず体に力が入り、気づけば手に汗を握っている。
そして、頂上付近へたどり着いたとき、思わず一息つきたくなるような感覚が自然に生まれる。
この「登り切った」という実感の心地よさも、本作の大きな魅力の一つだと感じた。

『Jusant』より:垂直に伸びる岩の裂け目を、両手で手繰るように登っていく。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
思わず立ち止まる、圧倒的な絶景
ここからは、本作の中でも特に強く印象に残った「風景」の側面について書いていきたい。
このゲームをプレイしていて何度も感じたのは、思わず声が出そうになるような風景に出会う瞬間の多さだった。
とにかくスケールが大きい。そして何よりも、「とても高い場所にいる」という感覚が強烈に伝わってくる。
はるか下方へと続く荒野。
見上げてもなお続いていく岩壁。
上下方向に大きく広がる空間の中に身を置いていると、自分が今、とてつもない空間にいるのだという実感がじわじわと身体に入ってくる。

『Jusant』より:ふと見上げれば、首が痛くなるほどの巨大な垂直世界。この塔がいかに雄大かを突きつけられる瞬間だ。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
前半には赤茶色の岩山が連なる景色が現れるが、その光景には、アメリカ西部の国立公園のような迫力を感じた。
断崖に築かれた住居跡から眼下を見下ろすと、広大な大地と複雑に重なる岩の地形がどこまでも続いており、しばらく操作する手を止めて眺めてしまう。
塔は細い柱のような構造ではなく、横方向にも広がりを持っているため、視線を少し動かすだけで景色の表情が大きく変わる。

『Jusant』より:アメリカ西部を彷彿とさせる、赤茶けた岩のパノラマ。塔は垂直の高さだけでなく、横方向にも奥行きを持っており、その途方もない広大さに言葉を失う。 © DON’T NOD / Focus Entertainment

『Jusant』より:アメリカ西部の大峡谷を思わせる、乾いた色彩と規模感。塔の内部へも複雑に広がる地形が、探索の深みを感じさせてくれる。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
どの方向を見ても、圧倒されるようなスケールの地形が広がっている。
その感覚は、アメリカのグランドキャニオンや、キャニオンランズ、ザイオンといった国立公園で、巨大な谷や岩の地形を前に立ち尽くしたときの感覚に近いものがあった。
また、断崖に沿って築かれた住居跡は、アメリカのメサ・ヴェルデ国立公園に残る先住民の断崖住居のようにも見え、複雑に重なり合う建造物の印象は、ギリシャのサントリーニ島に並ぶ集落を思わせる部分もあった。
さらに、眼下に広がる岩山の連なりは、水が引いたあとの海のようにも見え、小さな島が点在する景色を連想させる。
僕自身は、アメリカの国立公園を旅したときの記憶を重ねながらプレイしていた。

『Jusant』のプレイ中に思い出したキャニオンランズ国立公園の雄大な風景(撮影:筆者)

ザイオン国立公園 の「ナローズ」という谷底のハイキングコース。『Jusant』の塔の内部の切り立った崖と似た質感を感じる。(撮影:筆者)

まるで『Jusant』の住居エリアのモデルのようなメサ・ヴェルデ国立公園の遺跡。(撮影:筆者)
そして印象的なのは、こうした風景の「現れ方」でもある。
狭い通路や岩陰を進み、静かに登り続けていると、ある地点で突然視界が開け、思わず「うわ…」と声が漏れそうになるような景色が広がる。
それは、登山やハイキングで展望ポイントにたどり着いたとき、視界が一気に開ける瞬間の感覚にとてもよく似ている。
自分の足で少しずつ高度を上げてきたからこそ、その風景に出会ったときの印象がより強く心に残る。
本作は、新しい風景に出会うことそのものが、ゲームを続ける大きな求心力になっているのだ。
登山やハイキングにおいて、スポーツ的な達成感以上に、雄大な景色をただ静かに眺めていたいと感じる人にとって、本作の風景体験は特に強く印象に残ると思う。

『Jusant』より:人の暮らしの痕跡を包み込むような、圧倒的なスケールの自然。眼下の荒野から見上げる岩肌まで、重なり合う色彩のグラデーションに目を奪われる。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
隠れ家のような空間の魅力
このゲームには、ただその場にいるだけで心が落ち着いていくような静けさがある。
とくに印象に残ったのは、かつて人が暮らしていた場所に、今はもう誰もいないという空気感だ。
塔の内部には、レストランの跡や作業場のような空間、個人の書斎のような場所など、生活の痕跡がそのまま残されている。
人の姿はないのに、そこに確かに営みがあったことだけが伝わってくる。その気配が、淡いノスタルジーを呼び起こす。

『Jusant』より:かつて賑わったレストラン © DON’T NOD / Focus Entertainment

『Jusant』より:点在するかつての「個人のスペース」をゆっくり観察する。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
やわらかな光に照らされた室内空間には、どこかレトロSFのような穏やかな美しさがあり、角の取れた造形や落ち着いた色合いも相まって、不思議と安心感を覚える。
風の音だけが静かに響く中、気づけば操作を止め、その場の空気をしばらく眺めてしまう。
「もう少しここにいたい」と感じる場所が、何度も現れる。

『Jusant』より:崖側から指す光を、暗めの部屋で静かに感じる。光だけでノスタルジーを感じる─その感覚が見事に表現されているゲームだ。 © DON’T NOD / Focus Entertainment

『Jusant』より:光と影のコントラスト。乾いた色彩のなかに滲む温度感。その場の空気が、肌で感じられるようだ。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
この感覚をさらに印象的にしているのが、貝殻に耳を傾ける演出である。
作中のいくつかの場所では、貝殻に触れることで、その場所にかつて存在していた音の記憶が呼び起こされる。
たとえば、人が集っていた空間では、食器の触れ合う音や人々のざわめきのような気配が、淡い残響となって静かに広がる。
それは現実の音というより、記憶の中の音のようにやわらかく、どこか夢の中にいるような感覚を生む。
その場に積み重なっていた時間に、そっと触れているような感覚があり、この作品のノスタルジーを象徴する印象的な演出の一つになっている。

『Jusant』より:貝殻を耳に当て、過去の音に浸る。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
この世界には、どこか「隠れ家」のような魅力がある。
もしここで安全に過ごせるのなら、本でも持ってきて、景色を眺めながら静かに時間を過ごしてみたい。そう思わせる場所がいくつもある。
物語を追うこと以上に、ただこの空間に身を置いていたくなる。
人の痕跡だけが残された「美しい廃墟」を一人で巡っていく、そのソリチュードの感覚がとても心地よい。
静かな場所で、落ち着いて過ごす時間が好きな人にとって、この作品の空気感は強く印象に残るはずだ。

『Jusant』より:かつての誰かの暮らしが息づく、温かな空間。外に広がる雄大なパノラマを眺めながら、時間を忘れて滞在したくなるような魅力がある。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
このゲームの魅力がいちばん出る楽しみ方
このゲームは、良くも悪くも、とても淡々としている。
塔を登る旅はほとんど途切れることなく続き、やること自体も、基本的には「登る」「痕跡を見つける」「少しずつ先へ進む」の繰り返しである。
強いストーリー展開やゲーム的な刺激によって引っ張っていくタイプの作品ではない。
だからこそ、この作品は合う人と合わない人が比較的はっきりしていると思う。
たとえば、登山やハイキングにおいても、頂上を目指す達成感やスポーツ的な手応え、あるいは途中の出来事の多さを重視する人にとっては、やや単調に感じられるかもしれない。
一方で、風景の移り変わりや、ふいに現れる絶景を静かに味わうことに喜びを感じる人には、この作品はかなり深く刺さると思う。
本作は、風景や空気の肌触りをじっくり受け取りながら進んでいく、どこか文学的、詩的な手触りを持ったゲームなのだ。

『Jusant』より:大自然と居住エリアに漂う静けさを味わう。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
そして、この淡々とした旅に自分なりの「問い」を持ち込むと、体験はぐっと引き締まる。
特に意識しておきたいのが、「水」と「ビアンカの旅」である。
作中には、水が存在していた痕跡が各所に残されている。
また、主人公がたどっている道は、かつてビアンカも登っていった道として示されている。
この二つを意識しながら進めると、ただ塔を登るだけだった旅に、はっきりとした関心の軸が生まれてくる。
たとえば、
• かつてこの世界にあった水は、なぜ失われたのか
• ビアンカは旅の中で何を見つけ、どこへ向かおうとしていたのか
そうしたことを自分なりに推測しながら進めていくこと自体が、このゲームにおける静かな求心力になっていく。
残された痕跡を観察しながら、自分の中で少しずつ物語を立ち上げていく。
そういう楽しみ方をしたときに、いちばん強く魅力がにじみ出るゲームだと思う。

『Jusant』より:高地に残された舟や漁具。そこにあるはずのないものが、世界の変貌を物語る。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
なお、上の二点の疑問については、次の【ネタバレあり】の章で、僕なりの考察もまとめている。
クリア後に振り返りたい方は、そちらもあわせて読んでいただければうれしい。
【ネタバレ考察】水はどこへ消えたのか? 塔に残された「沈黙」の理由
※ここから先は物語の核心に触れる【ネタバレ】を含んでいる。
まっさらな状態で塔を登り切りたい人は、この章を飛ばして、次の章まで一気にスクロールしてほしい。
このゲームをクリアした時、誰もが抱く疑問がある。
地表から水がなくなり、なぜあんな天空に巨大な水の塊が浮いているのか。そして、あの浮いている水は何を意味しているのか、という点だ。
タイトルの「Jusant」がフランス語で「引き潮」を意味することから、素直に考えれば「海が遠くへ後退してしまったこと」が水が消えた理由だと思える。
しかし、それならなぜ最後は海が戻ってくるのではなく、空から「雨」が降ることで解決したのだろうか。
仮に水がなくなったことに引き潮の影響があったとしても、それだけではこの世界の謎はすっきりしない。
また、ネット上の考察では「自転が止まったせいで太陽が固定され、重力がおかしくなって水が空へ吸い上げられた」という物理的な複合説も語られている。
こういった説も一理あるが、ゲームの中の小さな相棒、バラストの動きをじっくり観察すると、この世界の仕組みについて、また違った側面からの読み解きができる気がしている。
■ 止まってしまった「雨を降らせる機能」
僕は、この世界の「雲」の機能を、二つの要素に分けて捉えてみた。
一つは水分を空に留める「保持機能」、もう一つはそれを雨として地上に還す「降雨機能」である。
そして、その保持機能の象徴が「天空の水の塊」であり、降雨機能の象徴が「バラスト」ではないか、と考えた。
現実の世界でも、海の水は太陽に温められて蒸発し、雲になる。そして雨として地上に戻ってくる。
この「循環」が、Jusantの世界では壊れているのだ。
空にある巨大な水の塊は、いわば「巨大な雲」の象徴だ。本来なら、ここに「降雨機能」を持つバラストたちが作用することで、水は雨になって地上へ還る。
いわば、バラストは「雨を降らせるスイッチ」のような存在と考えるのだ。
ところが、自転停止などの環境異変で、水分でできたバラストたちが弱り、深い眠りについてしまったと考えるとどうなるか。
蒸発は続くのに雨が降らないという、一方通行のシステムになってしまう。
水はどんどん空に貯金されたまま戻ってこなくなり、地上は干上がった。
人々はわずかな水場を求めて、あるいは食べ物を探して後退した海を追い、塔を降りるしかなかったのだろう。

『Jusant』より:ゲーム冒頭に描かれた乾いた大地。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
■ ビアンカが見据えた「水源」と、主人公の旅
かつて、この絶望的な状況の中で、地上に残されたわずかな水場や、後退した海をあてにするのではなく、失われた「水源」そのものを取り戻そうと塔を登ったのが先駆者のビアンカだ。
彼女は頂上付近まで辿り着いたが、眠りについたバラストたちを呼び覚ますための「共鳴」を起こすには、あと一歩力が及ばなかった。
そのバトンを受け取ったのが、主人公だ。
道中、相棒の小さなバラストが霧吹きのように植物を芽吹かせるのは、彼が「雨の力」の一部を持っている証拠といえるのではないか。
そして頂上で吹くあの大ラッパ。あの音は、凍りついた気象システム──つまりバラストたちへの「目覚まし時計」だったのではないだろうか。
彼らが一斉に目覚め、空のダムを開放したことで、ようやく世界に「重力に従って落ちる雨」が戻ってきたのだ、という説はいかがだろうか。
結局、生命を繋ぐのは天からの「雨」でしかない。
だからこそ、この物語の核心は「海が戻ること」ではなく、「雨という循環を取り戻すこと」にあるのではないだろうか。
■ あなたなりの「答え」を探してほしい
もちろん、これが正解だと言うつもりはない。
僕自身、全ての手記などを完全に読み込んだわけではないし、本当のところは開発者にしかわからない。
けれど、ただ淡々と登るだけではなく、
なぜこんな高い場所に船の跡があるんだろう?
船の跡があるということは、ここにあったはずの海水はどこに行ったのだろう?
と観察し、手記を読み、考えながら進む旅は、最高にワクワクするものだった。
このゲームは、答えを押しつけない。
だからこそ、自分なりの視点で、この美しい世界の謎をゆっくり考えてみてほしい。

『Jusant』より:コミュニティの中心にあったであろう水場の跡。今では乾ききった床と水瓶だけが、そこに水があった記憶を留めている。 © DON’T NOD / Focus Entertainment
『Jusant』は現在、PS5やPC(Steam)などでプレイできる。
・PS5(PlayStation Store)
・Steam
『Jusant』が好きな人におすすめしたい作品
『Jusant』をプレイしていて強く感じたのは、この作品の魅力が単に「塔を登るゲーム」というだけでは収まらないことだった。
圧倒的な風景を前に立ち尽くす感覚。
人の痕跡が残る静かな空間に身を置く心地よさ。
そして、誰もいない場所を一人で進んでいく旅情。
そうした感覚は、他の作品にもゆるやかにつながっている。
風景の中を歩き続ける静かな旅
『Firewatch』
アメリカ・ワイオミング州の森林監視塔を舞台にした一人称視点のアドベンチャーゲーム。広大な自然の中を歩きながら、無線越しの会話とともに物語が進んでいく。
大きな出来事が次々に起こるタイプの作品ではないが、森の空気、夕暮れの光、遠くに見える岩山といった風景が、静かに心に残る。
一人で自然の中に身を置く感覚、そしてその場所にしばらく滞在しているような時間の流れは、『Jusant』で感じた孤独とよく似ている(レビュー記事)。
『Firewatch』は現在、PS5やPC(Steam)などでプレイできる。
・PS5(PlayStation Store)
・Steam
『Lifeless Planet』
乾いた大地を歩き続ける探索型アドベンチャーゲーム。
舞台は地球ではないが、赤茶けた地形や広大な空間は、どこか『Jusant』でも感じたアメリカ西部の荒野を思わせる。
人の気配が消えた世界を進みながら、かつてそこにあった文明の痕跡を見つけていく体験も、『Jusant』の旅と重なる。
派手な演出よりも、風景のスケールや静けさそのものが印象に残る作品だ。
『Lifeless Planet』は現在、PC(Steam)などでプレイできる。※Steam版は日本語非対応
居心地のよい空間を歩く「隠れ家」の感覚
『Stray』
猫の視点で、静かな都市の空間を歩き回るアドベンチャーゲーム。
ネオンに照らされた路地や、生活感の残る部屋の中を探索する時間には、不思議な落ち着きがある。
危機的な状況の中にありながらも、どこか安心して身を置ける場所が点在している感覚は、『Jusant』に登場する居住空間の心地よさとも共通している。
「その場にしばらく留まりたくなる」空間を歩く楽しさが印象的な作品だ。
『Stray』は現在、PS5やPC(Steam)などでプレイできる。
・Amazon
・PS5(PlayStation Store)
・Steam
👉『Stray (ストレイ)』(Amazonページ)


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