『Balto of the Blue Dawn』レビュー|Magic Tree House Merlin Missions #26(Mary Pope Osborne)
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「Magic Tree House」シリーズとは?
「Magic Tree House」シリーズは、兄妹のジャックとアニーが、家の近くにあるツリーハウスを通じて時空を旅し、歴史や文化の中に入り込んでいく冒険を描いた英文児童書。シリーズは大きく2つに分かれている。
・「Magic Tree House」:初期シリーズ(対象年齢 6~9歳)
・「Magic Tree House Merlin Missions」:やや難易度が上がり、魔法の要素が強くなるシリーズ(対象年齢 7~10歳) 🔎 今回の巻
どの巻も、ツリーハウスから不思議な旅が始まるという共通の流れを持っており、巻ごとの独立性が高いため、どこから読んでも楽しめる構成になっている。やさしい英語で歴史や文化を学べるシリーズとして、大人の英語学習にもおすすめだ。
『Balto of the Blue Dawn』を読んで
歴史背景:ノームの疫病と犬ぞりリレー
アラスカの犬ぞりレース「アイディタロッド(Iditarod)」をご存じだろうか?
毎年3月、アメリカ・アラスカ州で開催されるこのレース「アイディタロッド」は、最も過酷な犬ぞりレースのひとつとして知られている。アンカレジからノームまで、およそ1,000マイル(約1,600キロ)もの雪原を走り抜ける長距離競技だ。
このレースは、1925年にノームで発生したジフテリア流行の際に活躍した犬ぞりチームの「セラム・ラン(Serum Run)」を記念して、後に創設されたものである。
当時、雪と氷に閉ざされたノームでは、感染が広がるなかで血清の入手が急務となり、航空機も使えない中、血清をリレー形式で運んだのが犬ぞりチームだった。極寒の中 1,000 km強を 5 日余りで走破した壮絶なリレーとして、今も語り継がれている。
本書『Balto of the Blue Dawn』は、その歴史的な出来事の中に主人公たちが飛び込んでいく物語だ。
舞台は血清リレーの最終区間──ソロモンからノームに向かうルート。ジャックとアニーの兄妹は、犬ぞりチームを側面から支えながら、命をつなぐリレーに参加していく。
物語の展開と見どころ
冒頭では、シリーズおなじみの設定が提示される。ジャックとアニーは、魔法を学ぶ少年テディ(モーガンの弟子)から今回のミッションを託される。
今回の任務では、「gold dust」を使うことで特別なスキルが得られること、また、現地の人々に自分たちの記憶を残さないよう「stardust」で記憶を消す必要があることが、最初に説明される。
ジャックはいつものように、旅先の手がかりをつかむためのガイドブックを手にしており、そこから当時のアラスカの状況や文化を少しずつ学んでいく。物語には実在の人物や犬も登場し、物語と史実が自然に交差する構成になっている。
物語は、ジャックとアニーがジフテリアの感染が広がるアラスカの町・ノームに到着するところから展開していく。
そこで出会った先住民の少年オキは、嵐が迫るなか、早く家族を救うために自分で血清を取りに行こうとしていた。危険な状況に胸を痛めたジャックとアニーは、彼に代わって大仕事に挑む。
こうして、極寒の雪原を駆ける犬ぞりの旅が始まる――。
物語が進むと、ジャックとアニーはgold dustの力で犬ぞりの操縦スキルを習得するのだが、この操縦描写に引き込まれる。
足の踏み込み、体重のかけ方、坂道でのバランスのとり方、犬の配置、掛け声のバリエーション、装備の名称まで──犬ぞりの基本が丁寧に描かれており、読みながら「自分でも操縦してみたい」と思わせられるほどリアルだ。
印象的なのは、Jackが犬ぞりを操縦しているとき、「犬たちと心がつながっているような感覚」を覚えるという場面。
これは、僕自身が乗馬の初心者として体験した感覚とよく似ていると感じた。地形や動きに合わせてバランスを取り、馬の負担を軽減する中で、自分の身体が動物と一体化していくようなあの感覚。それが犬ぞりの世界でも描かれているのがとても興味深かった。
この作品の魅力は、舞台となるアラスカの厳しい自然──雪、氷、吹雪──の描写にもある。極寒のなかを犬ぞりで突き進む旅の緊張感、吹雪の中での決断、命をつなぐための使命感。児童書でありながら、読者を一気に雪と氷の世界に引き込む力がある。
その中で、アラスカの先住民(イヌピアット)が、衣服づくりや生活の知恵として、現地の動物を最大限に活用してきた文化も語られ、背景の広がりを感じさせる。
英語の面では、アラスカの自然や犬ぞり文化にまつわる語彙が多く登場するのも、本書の特徴のひとつだ。
犬ぞりの操作や装備に関する言葉はもちろん、犬の動きや鳴き声といった表現、さらに雪や吹雪など自然描写にまつわる語彙まで、幅広く使われている。英語学習者にとっても、新鮮で興味深い語彙に触れられる内容になっている。
(※主要な語句については、記事の最後の章にて紹介している。)
本書が与えてくれる学びと魅力
『Balto of the Blue Dawn』は、アラスカやユーコン地域に根ざした「犬ぞり文化」、アイディタロッドという長距離犬ぞりレース、そして1925年の疫病危機などを、読者にとっての “とっかかり” として提供してくれる一冊である。
やさしい英語で構成されているため、英語学習をしながら歴史や文化への関心を深めることができる。児童書とはいえ、大人の読者にとっても新たな世界への扉を開いてくれる「知的な旅の入口」として、ぜひ手に取ってみてほしい。
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本書に出てきた印象的な語句
本書に登場する語句(英単語・表現など)のうち、印象に残ったものを以下にリスト化した。「どんな語彙が出てくるか」の参考程度にご覧いただきたい。
(※訳語は、辞書やネットなどをもとに、本書で使われていた意味に近いものとして個人的に抜粋したものである。正確な意味は、必ずご自身で確認していただきたい。)
🔍物語の背景の重要語句
• diphtheria:ジフテリア 👉 [ジフテリアとは?(厚生労働省のページ)]
• quarantine:隔離(期間)、検疫
• epidemic:伝染病、疫病
• serum:血清(※血液が凝固したあとに分離する透明な黄色い液体成分。ジフテリア治療に用いられた抗毒素は、免疫処理を施した馬の血清(horse serum)から作られていた。)
• Iditarod:アイディタロッド(※上述のアラスカの犬ぞりレース)
🔍犬ぞり/犬に関する語彙
• musher:マッシャー、犬ぞり操縦者
• dogsled:犬ぞり
• basket:バスケット(荷台/そり本体)(※犬ぞりで荷物や乗員を載せる部分。)
• runners:ランナー(滑走板)(※そり底面に平行に取り付けられ、雪に接して滑走と方向安定を担う細長い板。マッシャー(操縦者)が上に立つ。)
• slat :細長い薄板
• railing:手すり
• snow hook:スノーフック(※そりを停めるために雪面へ打ち込むアンカー。犬とそりが動かないよう固定する。)
• buckle:~をバックルで留める/締める
• harness:(馬車馬の)引き具、馬具、装着帯
• rigging:犬ぞりで犬たちをつなぐための複数のロープ類の総称。
• towline:牽引用のロープ
• tug line:引き綱
• neck line:首輪用のロープ
• collar:首輪
• lead dog:先頭犬
• swing dogs:スイング犬(先頭のすぐ後ろで曲がりを助ける)
• team dogs:チーム犬(隊列の中央で推進力を担当)
• wheel dogs:ホイール犬(そりの直前で重さを支える)
• Hike!:進め!(走り出す合図)
• Gee!:右!(右に曲がれ)
• Haw!:左!(左に曲がれ)
• Straight Ahead!:まっすぐ!(道なりに進め)
• Whoa!:止まれ!(ストップの命令)
• Line Out!:前にまっすぐ並べ!(スタート時などに犬が引っ張り気味にまっすぐ並ぶよう指示)
👉 以上、犬ぞり用語のページ参照(Iditarod公式、Gunflint Mail Runの用語集、Neewa USAのコマンド解説、Alaska Mushing Schoolの用語集)
• yip:犬などがキャンキャン吠える声、甲高い声
• yelp:(犬などが)キャンキャン鳴く、(人が)悲鳴を上げる
• whine:(犬が)クンクン鳴く、泣き言を言う
• yowl:動物が遠吠えをする、人が悲しげに叫ぶ
• leap:跳ぶ、はねる
• wiggle:小刻みに動く
• trot:(馬などを)速足で駆けさせる、早足
• gobble:ガツガツ食べる
• wolf:ガツガツ食べる、むさぼり食う、オオカミ(※wolf down:〈話〉~をむさぼり食う、~をガツガツ食べる)
• furry:毛皮でおおわれた
• shaggy:毛むくじゃらの
• pad:(動物の)肉球
🔍寒い地域にかかわる語彙
• mitten:ミトン、手袋(※親指だけ離れているふたまた手袋)
• parka:パーカー(※イヌイットがアザラシやトナカイなどの毛皮で作ったフード付きの防寒着)
• snowdrift:雪の吹きだまり
• frostbite:凍傷
• frigid:極寒の
• swirl:渦巻く(※swirling snow:渦巻く雪、舞い散る雪)
• whirl:グルグル回る、渦巻く(※whirling snow:渦巻く雪)
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