『Sable』レビュー──静かな荒野をさすらう旅路へ

ゲーム
Illustrative image inspired by Sable

『Sable』(Shedworks / 2021年)レビュー・感想

 

『Sable』より: ホバーバイクで荒野をさすらう。© Shedworks / Raw Fury

 

『Sable』は現在、PS5PC(SteamXboxでプレイできる。

 

 

 

 

はじめに――アメリカ西部の荒野に惹かれて

今回は、オープンワールドゲーム『Sable』について語りたい。

 

このゲームに興味を持った一番の理由は、大好きなアメリカ西部の荒野を思わせる空気感だった。

赤茶けた大地。乾いた岩山。どこまでも続く空。そこに、ノスタルジックで静謐な空気も漂っている。

ゲームの内容については、オープンワールド作品であること以外、ほとんど何も知らなかった。それでも、「アメリカ西部のような広大な景色の中を、ただ静かに旅してみたい」という気持ちだけで、十分に惹かれるものがあった。

 

もう一つ期待していたのが、フランス語圏のコミック文化「バンド・デシネ」を代表する作家、メビウス(ジャン・ジロー)を思わせるビジュアルである。

僕はもともとメビウスの作品が好きで、とりわけジャン・ジロー名義で描かれた西部劇シリーズ『ブルーベリー』の日本語版に強く惹かれていた(レビュー記事)。

あの独特の線と色彩で描かれたような世界を、自分の足で自由に歩き回れる。そう考えるだけでも、大きな期待が膨らんだ。

 

 

実際に遊んでみると、『Sable』は期待していた荒野の旅情や、メビウスの作品世界を思わせる風景を、存分に味わわせてくれた

 

しかし、それだけではなかった。

自由にさすらう楽しさ、子どものころのように探索に夢中になる感覚、そして、自分の生き方を探す旅に漂う静かな感傷――。

プレイ前には想像していなかった味わいまで、この作品には詰まっていた。

 

『Sable』より:旅の途中で立ち寄った小さな拠点。アイテムを買い、人々の話を聞き、新たなクエストを引き受ける。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

 

 

 

この記事で語りたいこと

本記事では、ゲームシステムの細かな説明や攻略情報にはほとんど触れない

また、物語の具体的な展開や終盤の内容についても、できるだけネタバレを避けながら進めていく。

 

それよりも、

・広大な世界を気ままに旅する心地よさ
・アメリカ西部の荒野を思わせる風景と空気感
・メビウス調のビジュアルが生み出す独特の世界観
・戦わず、好奇心のまま探索に没頭する楽しさ
・自分の生き方を少しずつ見つけていく旅の物語

といった、『Sable』ならではの体験を中心に語っていきたい。

 

この作品は、派手な展開や刺激を楽しむゲームではない。一つひとつの風景や寄り道、その土地に流れる空気をゆっくり味わうゲームだ。

本記事では、そうした「旅をする感覚」が、なぜこれほど心地よく、心に残るのかを中心にレビューしていく。

 

さらに記事の後半では、この世界に惹かれた方へ向けて、現実のアメリカ西部で味わえる風景や、響き合う他の作品についても紹介したい。

 

 

 

 

──ここから先は、ゲームのより具体的な内容や、プレイを通じて感じたことを、丁寧に書き記していきたい。

少し長めの文章になるが、コーヒー片手に、広大な荒野をのんびり旅するような気持ちで、ゆったりとお付き合いいただければと思う。

 

 

『Sable』より: 雄大な世界を、静かに旅する。© Shedworks / Raw Fury

 

 

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※本記事では物語のネタバレはできるだけ避けている。掲載している画像もゲーム全体のほんの一部にすぎないが、本作の大きな魅力である「風景の空気」が伝わる程度には紹介している点、ご理解いただきたい。

 

 

 

 

 

『Sable』とは?──ゲームの概要

『Sable』は、主人公セーブルが成人の儀式「グライドの旅」に出て、自分の生き方を探していくオープンワールドアドベンチャーゲーム。

広大な砂漠や廃墟、町を自由に巡りながら、人々の依頼をこなし、探索や収集を進めていく。戦闘や敵は存在せず、自分のペースで世界を旅できるのが大きな特徴だ。

マップは広大なオープンワールド。どこへ行くのも、どの順番で探索を進めるのも完全にプレイヤーの自由だ。

各地でさまざまな仕事をこなし、「バッヂ」を3枚集めると、その職業を象徴する「マスク」を作ることができる。世界には数多くのマスクが存在し、最終的に自分の職業や生き方を象徴するマスクを選ぶことで、セーブルの旅は一区切りを迎える。

移動はホバーバイクが中心だが、高い場所へは壁をよじ登り滑空しながら進んでいく。各地に隠された「チャムの卵」を集めて「チャム・クイーン」に捧げると、スタミナを強化できるため、より高い場所まで登ることができるようになる。

探索では、くず鉄や昆虫、魚、果物などを集めて売ることでお金(カット)を稼げるほか、新しい服やマスク、ホバーバイクのパーツなども手に入る。

ホバーバイクのパーツを購入して走行性能や見た目を自由にカスタマイズできる。一方、服やマスクは基本的に外見を変えるためのアイテムとなっている(一部例外あり)。

 

『Sable』より:ホバーバイクはパーツを組み替えることで、スピードや加速度、安定性が変わる。個人的には性能よりも、デザインや音、乗り心地を重視した。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

 

 

 

冒険というより、荒野をめぐる静かな放浪

ゲームを始めた当初は、自分の村の外へ出た瞬間から、大きな冒険が始まる作品なのだろうと、どこか無意識に思っていた。

 

しかし、広大な世界を旅し始めると、その印象は少しずつ変わっていく。

本作で味わえるのは、「冒険」というよりも、ゆるやかな目的を胸に荒野をめぐる、ロードムービーのような「放浪」の感覚だった。

 

本作の目的は、外の世界を巡り、さまざまな人々と出会い、交流や手助けを重ねながら、自分が将来どんな役割を担うのかを見つけることにある。

世界を救うとか、秘宝を探し求めるといった、明確で強固な目的へ一直線に突き進む旅ではない。

荒野の風景を味わい、人々の話に耳を傾け、ときには困っている人を助けながら、一歩ずつ世界を知っていく。その積み重ねの中で、自分自身の将来も少しずつ見えてくる

 

そんな旅だからこそ、目的地へ急ぐというより、ホバーバイクや徒歩で気の向くまま荒野をさすらう時間そのものが心地よい。

ノスタルジックな風景と音楽も、その優しい旅情をいっそう引き立てている。

そこには、ロードトリップをしているような開放感と、どこか文学作品を読んでいるような静かな手触りがあった。

 

『Sable』より:旅の途中で足を止め、雄大な風景と静かな時間をしみじみ味わう。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

また、この世界は完全な未知の秘境を探検するという雰囲気でもない。

どこへ行っても、人々は「グライドの旅」という文化を理解していて、「旅を頑張って」と自然に声を掛けてくれる。主人公は見知らぬ世界へ放り出された異邦人ではなく、同じ文化圏の中を旅する若者なのだ。

その感覚は、例えば社会に出る前、高校や大学を卒業した若者が、日本中を自転車で旅しながら、自分の将来をゆっくり考えていくような姿にも少し似ている。

旅先で出会う大人たちは、それぞれの仕事や人生を持ち、主人公を温かく励ましてくれる。その交流を重ねながら、少しずつ精神的に成長していく──そんな穏やかな空気が、この作品全体を包んでいる。

 

『Sable』より:行く先々で出会う人々との何気ない会話が心地よい。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

この「放浪感」は、僕にとってとても新鮮だった。

マスクを選ぶという目的はあるものの、期限に追われることもなく、自分の感性の赴くまま人々と出会い、風景を眺め、寄り道を重ねていく。

正解のない旅の中で、さまざまな景色や人々に触れながら、自分自身も少しずつ成長していく──そんな若者の心境を、プレイヤー自身も自然と追体験できるのである。

 

終盤、旅を終えて村へ帰る場面では、不思議と「成長した自分を皆に見せたい」という気持ちになった。

それは主人公だけでなく、この長い放浪を終えたプレイヤー自身もまた、旅を通して少しだけ成長したような気持ちになれるからなのかもしれない。

 

『Sable』より: 拠点で子供と共に月夜の荒野を眺める。穏やかな時間が流れる。© Shedworks / Raw Fury

 

 

 

 

 

景色とアート、静かなSFが溶け合う世界

さて、ゲームを始める前から最も期待していた、風景とグラフィックの魅力についてじっくりと語りたい。

すでに触れたように、僕は現実のアメリカ西部を巡るのが大好きで、そんな風景の感触を味わえるのかどうかが気になっていたのだ。

 

結論から言えば、その観点で十分に満足できたといえる。

だが、本作の世界を形作っているのは、アメリカ西部を思わせる雄大な風景だけではない。メビウス(ジャン・ジロー)の作品を思わせる絵画的な造形や、大自然の中に未来文明の遺物が静かに沈む、穏やかなSFの寂寥感も大きな見どころである。

以下のような風景や世界観に惹かれる人には、ぜひ味わってほしい作品だ。

 

 

アメリカ西部を思わせる、赤茶けた荒野の絶景

本作のグラフィックは、砂埃や岩肌のざらつきを写実的に描くものではない。輪郭と色を大胆に簡略化した、滑らかで絵画的な表現である。

それでも、広い大地をどこまでも進んでいく感覚や、暑さを感じさせる乾いた空気、周囲に人影のない静けさには、確かにアメリカ西部を旅しているような手触りがあった。

 

巨大な自然の中に自分だけがぽつんといるような孤独。その一方で、見知らぬ土地を自由に進んでいける解放感。

写実的ではないからこそ、現実の風景をそのまま再現するのではなく、荒野に立ったときの高揚や寂しさを、純度の高い形で味わえるようにも感じられた。

 

『Sable』より: 絵画のような画面の中に、アメリカ西部らしい空気が息づいている。© Shedworks / Raw Fury

 

 

エリアごとに景観が大きく変わるのも楽しい。

モニュメントバレーを思わせる巨大なメサがそびえる赤土の地域もあれば、アーチーズ国立公園やブライスキャニオン国立公園を連想させる、奇岩や岩塔が立ち並ぶ地域もある。

アリゾナ南部のようにサワロ(大きなサボテン)が群生する大地を抜けたかと思えば、今度は湿気を帯びた鬱蒼とした森へ入り、少し不穏な空気に包まれることもある。

 

『Sable』より: 奇岩に囲まれるエリアをホバーバイクで駆け抜ける。© Shedworks / Raw Fury

 

 

強い日差しに照らされた昼の荒野には、乾ききった大地を歩く心地よさがある。
一方、夜になれば風景は青や紫に沈み、月明かりの砂漠をひとりで進む、静かな寂寥感に浸ることができる。

そうした景色や時間の移り変わりを眺めながらホバーバイクや徒歩で走っていると、ただ広いマップを移動しているのではなく、いくつもの土地を巡る長い旅をしている気分になってくる。

 

風が大地を吹き抜ける音や、静かに流れる環境音も心地よい。

部屋にいながら、アメリカ西部を思わせる壮大な風景の中をさすらいたい。そんな期待を抱いていた僕にとって、本作はその感触を存分に味わわせてくれる作品だった。

 

『Sable』より:モニュメントバレーホースシューベンドを思わせる、アメリカ西部さながらの絶景が広がる。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

 

一枚の絵を眺めるような美しさ

本作の画面には、上で語った風景としての美しさだけでなく、一枚の絵を眺めるような楽しさもある。

ビュートや岩山の並び地面の緩やかな起伏遺跡や植物の形空の色や雲の広がりにも独特のリズムがあり、何気なく立ち止まった場所でさえ、画面全体が不思議なほど整って見えることがある。

色彩と光も、時間帯によって大きく表情を変える。

建物の飾り窓から差し込む光や、植物園に並ぶ幾何学的な設備、遺跡の内部に浮かび上がる模様など、自然以外の場所にも思わず見入ってしまう造形が多い。

 

『Sable』より: 色彩や光の調和が心地よく、一枚の絵を眺めるような気持ちになる。© Shedworks / Raw Fury

 

『Sable』より:ビュートと空、雲が織りなす造形が印象的な夜の風景。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

画家ジョージア・オキーフが、自然を題材にしながら、その形や色を抽象的な美へと変えていったように。あるいは写真家アンセル・アダムスが、山や岩、光と影の濃淡を、一つの壮大な造形として写し出したように。

『Sable』にも、自然の風景を眺める喜びと、その形や色彩そのものを味わう喜びが同時にある。

 

そして、この独特の画風を語るうえで欠かせないのが、メビウスの存在である。

開発者たちは、メビウスの『アルザック(Arzach)』に描かれた砂漠の旅情や、『エデナの世界(The World of Edena)』に見られる澄んだ色彩と線画から影響を受け、本作の世界を作り上げたという。

広大な砂漠、奇妙な生物や建築物、細い輪郭線と明快な色彩。画面の中を自由に移動していると、まるで動くメビウスの絵の中へ入り込み、自分の手で旅を続けているような感覚になる。

風景を楽しむゲームであると同時に、巨大な一枚の絵の中を歩き回るゲームでもあるのだ。

 

『Sable』より:ピンク色の奇岩と木々、影が織りなす色彩と模様に思わず見入ってしまう。 © Shedworks / Raw Fury

 

『Sable』より: 色彩を抑えた風景と、静かに残された残骸。そのシンプルさが心に残る。© Shedworks / Raw Fury

 

『Sable』より:建造物内部にも、美しい色彩と意匠が散りばめられている。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

 

自然の中に沈む未来文明――静かなSFの寂寥感

もう一つ心を引かれたのが、雄大な自然の中に、人工物や文明の痕跡が突然姿を現す光景である。

荒野を進んでいると、巨大な機械や船の残骸、用途のわからない施設が、岩山や砂漠の一部になったかのように静かに佇んでいる。

かつて誰かがそこで暮らし、働き、何かを動かしていた。しかし今では役割を失い、内部には静けさが漂っている。

その光景には、人の気配が消えた寂しさがある。それと同時に、「ここは何のために作られたのだろう」「かつて何が起きたのだろう」と想像しながら探索する、廃墟巡りのようなワクワク感もある。

 

『Sable』より: 自然の中に静かに残された未来文明の痕跡が、淡い寂寥感を漂わせる。© Shedworks / Raw Fury

 

 

残されているのは、昔ながらの石造りの建物だけではない。巨大な宇宙船や機械設備など、はるかに進んだ文明を思わせる遺物も数多い。

そうした、自然の中に点在する未来文明の跡を、誰にも急かされず、静かに見て回ることができる。そこには、危機や戦争を中心とした世界とは異なる、「穏やかでノスタルジックなSF」の空気が流れている。

終末世界の雰囲気や、廃墟巡り産業遺産・巨大建築・工場萌えのような世界観が好きな人にとっても、たまらない作品だろう。

 

『Sable』より:大自然の中に佇む巨大な人工物。その奇妙な違和感が、この世界ならではの風景を生み出している。© Shedworks / Raw Fury

 

 

 

『Sable』は、急いで先へ進むことを求めるゲームではない。
ときにはホバーバイクを降り、歩みを止めて、ただ風景を眺めてみてほしい

遠くに連なる岩山。風に揺れる草木。夕暮れに沈む遺跡。自然の中にひっそりと残る、かつての未来。

その世界に身を置き、景色にゆっくりと浸ることこそが、『Sable』の大きな楽しみなのである。

 

『Sable』より:最後まで、この世界の風景から目が離せなかった。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

 

 

 

戦わず、好奇心のまま探索に没頭する

だが、『Sable』の魅力は、風景や世界観に浸ることだけにとどまらない。

探索を中心としたゲームプレイにも、気づけばいつまでも続けてしまうような、静かな中毒性がある。

 

本作には敵が存在せず、戦闘もない。高い場所から落ちても命を失うことはなく、展開に急かされる場面もほとんどない。

時間を競うミッションは一部にあるものの、それほど難しくはなく、基本的には自分のペースで世界を巡ることができる。

そのため、敵の気配や失敗への不安に気を取られず、目の前の空間をじっくり観察できる。

 

あの岩の上には何があるのか。
遠くに見える建物へは、どうすればたどり着けるのか。
あの高所まで登れば、別の場所へ滑空できるのではないか。

周囲を見渡し、道筋を考え、実際に試してみる。好奇心の赴くまま探索そのものに没頭できるのだ。

 

クエストの舞台となる場所も、それぞれ異なる仕掛けや雰囲気を持っている。

同じような施設を繰り返し巡るのではなく、訪れるたびに、その場所ならではの遊び方が用意されているのも楽しい。

 

『Sable』より:放置された宇宙船の残骸。内部にどんな探索やパズルが待っているのか、期待が膨らむ。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

そして、探索の中では、マスクや衣服、ホバーバイクのパーツをはじめ、売却できる物資や生物など、さまざまなものを手に入れられる。

 

なかでも僕が夢中になったのが、「チャムの卵」の収集だった。

チャムの卵を一定数集めると、壁を登る際に使うスタミナを増やすことができる。より高い場所へ登り、さらに探索範囲を広げるためにも役立つ、非常にうれしい報酬である。

 

『Sable』より:建物の上に何かありそうだと思って登ってみると、チャムの卵(左)や宝箱が見つかる。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

しかも、その入手方法そのものが面白い。

たとえば、高い塔の頂上にチャムの卵が見えている。しかし、塔を下から直接登ろうとしても、高すぎて途中でスタミナが尽きてしまう。

 

そこで周囲を見渡してみる。

少し離れた場所に、屋上まで登れそうな建物がある。まずはそちらの最上階を目指し、十分な高さを確保してから滑空すれば、塔の頂上まで届くかもしれない。
実際に試してみると、狙いどおり卵のある場所へ着地できる。

見えているのに、すぐには手が届かない。だからこそ、周囲の地形や建物を観察し、自分なりの経路を組み立てていく。

この「どうすれば、あそこまで行けるのだろう」と考える時間がたまらなく楽しい。

 

 

こうした探索の面白さを、最も強く感じた場所が、砂漠に残された巨大宇宙船の残骸「クジラ船」である。

残骸とはいえ、船内には今も動いている設備があり、巨大な空間の各所に部屋や足場、アイテムが配置されている。外から見上げるだけでも圧倒されるが、中へ入ると、その施設全体が一つの巨大な立体パズルのように作られていることがわかる。

 

『Sable』より:クジラ船の外観。探索の楽しさが詰まった場所だ。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

遠くの高所にチャムの卵が見える。
しかし、そこへ続く道は見当たらない。

近くにある梯子や足場を使うのか。機械の仕掛けを動かす必要があるのか。それとも、まったく別の場所まで登り、そこから滑空して向かうのか。

目に入る構造を一つずつ確認し、試しながら、目的地までの道筋を探していく

その感覚は、子どものころ、公園の複雑なジャングルジム巨大な屋内アスレチックを前にして、「どうやって一番上まで登ろう」と夢中で考えた時間にも少し似ている。

自分の身体で走り、登り、飛び移りながら、巨大な空間そのものを読み解いていく遊びである。

 

『Sable』より:クジラ船の内部。探索心を刺激する仕掛けが、至る所に散りばめられている。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

この「クジラ船」を探索しているときに、このゲームはかゆいところに手が届くようなかなり緻密な作りを目指しているというのがはっきりとわかった。

遠くからは単なる壁や装飾に見えた場所にも、実際に入り込める道がある。何気なく置かれた足場にも意味があり、観察を続けていると、次の経路が少しずつ見えてくる。

作り手が、「ここへ登れたら面白いだろう」「こんなところに何かが隠れていたら、きっと驚くだろう」と楽しみながら空間を作ったような、手作りの遊具にも似た丁寧な細やかさが感じられるのである。

 

しかも、製作者から「あれを取れ」「ここへ登れ」と促されるわけではない。

チャムの卵をすべて集めなくても、物語を終えることはできる。高所に何かを見つけても、興味がなければ通り過ぎて構わない。

それでも、遠くに何かが見えてしまうと、どうしても行ってみたくなる。
この自発性こそが、『Sable』の探索を特別なものにしている。

 

 

こうした巨大なアトラクションのような探索場所は、クジラ船だけではない。

一つの巨大建築そのものが町になっている「エックリア」では、入り組んだ建物の隅々に、クエストやアイテムが散りばめられている。

巨大な生物の骨が地形のように広がる場所もあれば、生物の体内へ入り込む、奇妙で印象的なクエストもある。

訪れる場所ごとに、目にする風景も、進み方も、そこで覚える感触も違う。そのため、新しい土地を見つけるたびに、「今度はどんな遊びが待っているのだろう」と期待が膨らんでいく。

 

『Sable』より: エックリアにて。町のあちこちにアイテムやクエストがあり、気付けば探索に夢中になってしまう。© Shedworks / Raw Fury

 

 

 

『Sable』は派手な戦闘や難しい操作で興奮させるゲームではない。

それでも、気になるものを見つけては近づき、登り方を考え、知らない空間の奥へ入り込んでいくうちに、画面の前で静かに目を輝かせている自分に気づく

子どものころ、新しい遊び場を見つけたときのように、童心に帰って楽しむことができるのだ。

ぜひ好奇心のまま世界を駆け回り、この探索に思う存分浸ってみてほしい。

 

 

 

 

 

画面のカクつきと、自由さゆえのわかりにくさ

ここまで魅力を中心に紹介してきたが、気になった点もいくつかあったので触れておきたい。

 

まず一つは、画面のカクつきである。

僕は通常のPS5でプレイしたが、町「エックリア」のようにオブジェクトが密集したエリアや、一部の荒野をホバーバイクで高速移動している際には、フレームレートの低下が目立った。プレイ環境によって差はあるかもしれないが、けっこう気になった点だった。

(※ネット上のアドバイスに従って、設定の「線の太さ」「細い」にしてみたが、どれくらい効果があったかはよくわからなかった…)。

 

『Sable』より:エックリアの路地にて。非常に美しく探索も楽しい町だが、建物や小物が多い場所では画面のカクつきが気になった。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

そしてもう一つは、自由度の高さゆえのわかりにくさである。

本作は「この順番で進めなければならない」というゲームではない。気になった場所へ行き、好きなクエストを受け、自由に世界を巡っていくことができる。

その反面、しばらく放置していたクエストについて、「どこで受けた依頼だっただろう」と迷ったり、アイテムを先に手に入れたため、その用途がしばらく分からなかったりすることもあった。

ゲームに慣れている人なら問題なく進められるのかもしれないが、僕自身は攻略サイトを確認する場面が何度もあった

 

とはいえ、エンディングまで遊び終えて振り返ると、この少し大らかな作りこそが、『Sable』らしさでもあったようにも思う。

このゲームは、効率よくクエストを消化することよりも、「今日はあちらへ行ってみよう」「気になる建物があるから寄ってみよう」という気ままな旅を大切にしている。

 

だからこそ、最初から完璧に進めようとしなくても大丈夫だ

取り逃がしたアイテムは後から回収できるし、クエストの順番が開発者の想定と少し異なったからといって、物語が破綻することはない。

むしろ細かなことを気にしすぎず、その場で目に入った景色や、ふと気になった場所へ足を向ける

そんな遊び方こそ、このゲームの魅力を最も自然に味わえるように思う。

 

 

 

 

 

まとめ――旅の途中で、ただ座って景色を眺める

最後に、小さなことではあるが、このゲームでとても好きだった機能について触れておきたい。

それは、好きな場所で「座れる」ことだ。

景色のよい場所を見つけたら、その場に腰を下ろす。
荒野の向こうに連なる岩山を眺めるのもいい。
遠くに残された巨大な廃施設をぼんやり眺めるのもいい。
少しずつ色を変えていく空を見上げながら、そのまま何もしない時間を過ごすのが心地よい。

風や鳥の声などの環境音も流れているため、画面をそのまま眺めているだけでも、自然の中にいるような気分になれる。

 

『Sable』より:ただ座って、広大な景色を眺める。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

もちろん、攻略には何の関係もない

けれど、この「座る」という機能は、『Sable』という作品を象徴するような仕掛けだと感じた。

目的地へ急ぐよりも、ときには立ち止まる。
何かを達成するよりも、その土地の景色や空気を味わう。

そんな時間があるからこそ、この世界は単なるゲームの舞台ではなく、「旅をした場所」として心に残っていくのだろう。

 

『Sable』より:はるか遠くまで続く奇岩群を見下ろす。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

『Sable』は、自由な心で世界をさすらい、さまざまな人と出会い、少しずつ自分の進む道を見つけていくゲームだった。

その一方で、気になる場所を見つけては駆け寄り、高い場所を見つけては登り、子どものころのように夢中で探索を続ける。

疲れたら、景色のよい場所に座って、しばらく風景を眺める。

そんな余白が心地よい作品でもあった。

 

広大な世界を気ままに旅したい人に、ぜひ一度プレイしてほしい一本である。

 

 

『Sable』より:静かな余韻が、いつまでも残る。 © Shedworks / Raw Fury

 

 

 

 

 

 

 

ここまで、『Sable』そのものの魅力について語ってきた。

ただ、この作品をプレイしていると、その余韻はゲームの中だけでは終わらない。現実のアメリカ西部の風景や、この作品と響き合う漫画・ゲーム・写真集へと、自然に興味が広がっていく。

最後に、『Sable』のような旅をさらに楽しめるものを、いくつか紹介して締めくくりたいと思う。

 

 

 

ゲームの荒野から、現実のアメリカ西部へ

『Sable』で味わった広大な風景は、現実のアメリカ西部にも広がっている。

ここでは、本作が好きな方にぜひ訪れてほしい場所を、僕自身の旅の写真とともに紹介したい。

 

モニュメントバレーの三大ビュート。The View Hotel(ザ・ビューホテル)の展望台から望む絶景

モニュメントバレー(Monument Valley): アメリカ西部を象徴する巨大なビュートが、広大な大地にそびえ立つ風景。『Sable』の荒野を思わせる、静けさと圧倒的なスケールが広がっている。(撮影:筆者)

👉 関連記事:モニュメントバレー──巨岩と荒野の静けさに包まれる旅

 

 

ホースシューベンド(Horseshoe Bend): コロラド川が大地を大きくえぐるように蛇行する、アリゾナ州屈指の絶景。高台から見下ろす広がりと足元の深さに、『Sable』で崖の上から世界を眺めたときの感覚が重なる。(撮影:筆者)

 

 

ブライスキャニオン国立公園(Bryce Canyon National Park): フードゥーと呼ばれる無数の岩の塔が連なる、ユタ州の国立公園。奇妙な造形の間を歩いていく感覚は、『Sable』の未知の土地を探索する楽しさそのものだ。(撮影:筆者)

 

 

アーチーズ国立公園(Arches National Park): 巨大な岩のアーチが並ぶDouble Archは、公園を代表する景観の一つ。自然が生み出したとは思えない造形が、『Sable』の世界に広がる奇妙で印象的な岩の風景を思わせる。(撮影:筆者)

👉 関連記事:アーチーズ国立公園──赤い奇岩と天然アーチに圧倒される旅

 

 

 

 

 

『Sable』が気に入った人におすすめしたい作品

最後に、『Sable』で味わった静かな旅や広大な荒野の空気を、別の形で楽しめる作品を紹介したい。

 

 

『アルザック(Arzach)』

『Sable』の世界観が気に入ったなら、その大きな源流となったメビウスの代表作『アルザック』もおすすめしたい。

本書の中心となる4作品を合わせても30ページ余りしかなく、セリフもほとんどないため、一般的な漫画とは少し趣が異なる。それでも、『Sable』へと受け継がれた世界観や空気感を感じながら、絵画集のように何度もページを開きたくなる。

「癖になるような味わい」がたまらない一冊である。

 

『アルザック(Arzach)』フランス語版表紙(出典:Amazon商品ページ)

👉『アルザック(Arzach)』Amazonページ

 

 

 

『レッド・デッド・リデンプション(Red Dead Redemption)』

『Sable』とは異なり、写実的なグラフィックで描かれたシリアスな西部劇ゲームであり、戦闘や犯罪、命がけの人間模様が物語の中心となる。

しかし、広大なアメリカ西部を自由に旅し、町を離れて荒野へ分け入りその土地の空気を身体で感じながら放浪する感覚は、『Sable』が好きな人にもきっと心に響くはずだ。

 

『レッド・デッド・リデンプション(Red Dead Redemption)』パッケージ画像(出典:Amazon商品ページ)

👉『レッド・デッド・リデンプション』(Amazonページ

 

 

 

『Ansel Adams: 400 Photographs』

『Sable』で雄大な自然を眺める時間が好きだったなら、アメリカ西部の壮大な風景を撮り続けた写真家アンセル・アダムスの写真集『400 Photographs』もぜひ手に取ってみてほしい。

モノクロ写真でありながら、アメリカ西部の大自然は圧倒的な存在感を放ち、光と陰影、岩山や木々が織りなす造形は、絵画のような美しさを見せてくれる。

 

『Ansel Adams: 400 Photographs』パッケージ画像(出典:Amazon商品ページ)

👉『Ansel Adams: 400 Photographs』Amazonページ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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