アメリカの「寂れた風景」になぜ惹かれるのか──砂ぼこり、錆びた看板、取り残された町の色気

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アメリカの寂れた風景を味わう──西部、南部、ラストベルト、都会の裏路地へ

 

 

 

 

寂れた風景に宿る、アメリカの色気

 

アメリカの「寂れた」風景に、どうしようもなく惹かれてしまう。

 

砂ぼこりの舞う古い町。
色あせたモーテルやガソリンスタンド。
人気のないメインストリート。
錆びた工場や倉庫。
草木に少しずつ飲み込まれつつある木造家屋。
都会の高架下や路地裏──。

 

こうした風景には、産業の衰退や人口流出、地域経済の停滞など、アメリカという国が抱えてきた苦い歴史も深く刻まれている。

 

それなのに、なぜか目が離せない。

洗練された大都市の夜景よりも、ペンキの剥げかけたロードサイドの看板のほうに、僕はアメリカの生々しい色気を感じてしまうのだ。

アメリカをドライブしていると、ロードサイドにぽつりと建つ古びたモーテルが、どうしても気になってしまう。

 

そこには、色あせながらも続いていく静かな生活がある。
かつてそこで生きた人々の気配があり、人工物が少しずつ自然へと還っていく切なさがある。

そして、映画や音楽、小説、写真、ゲームといった数々の作品もまた、そうした「寂れ」に輪郭を与え、渋くて格好いい文化的なイメージへと育ててきた。

 

 

古びた建物や荒れた道は、単なる衰退の爪痕ではない。長い時間をくぐり抜けたものだけが帯びる、独特の味わいでもある。

この記事では、さまざまな作品のなかにも息づいてきた、「アメリカの寂れた風景」の魅力をたどっていきたい。

 

「アメリカの片隅」を静かにロードトリップする気分で、ゆったりと読み進めてもらえればうれしい。

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ各地に息づく、異なる寂れの表情

ひと口にアメリカの「寂れた風景」といっても、その表情は土地によって大きく異なる

砂ぼこりの舞う西部の町、産業の衰退を刻んだ東部の建物、湿った空気に包まれた南部の田舎道…。

そこに残る色や質感には、それぞれの地域が歩んできた歴史が反映されている。

 

ここでは、そうした風景が生まれた「背景」を地域ごとにたどりながら、そこに「どのような味わいや風情が宿っているのか」を見ていく。

 

さらに、その空気をより深く感じられる映画やゲーム、写真集などもあわせて紹介したい。

この記事を入口に、それぞれの作品をじっくり楽しみながら、アメリカの風景に漂う奥深さを味わっていただければうれしい。

 

 

 

砂ぼこりと錆びた看板──西部に残る寂れの風景

 

 

 

まず見ていきたいのは、アメリカ西部だ。

 

西部では、鉱山や鉄道、農牧業といった特定の役割を支えるために生まれた小さな町が数多く見られる。

そのため、その役割が失われると、人口や商業も急速に縮んでいくことになる。

 

代表的なのが、鉱山や資源開発によって生まれた町である。

金や銀、銅などを求めて人が集まり、住宅や商店、酒場まで作られても、採掘が終われば仕事はなくなる。人々が去ったあとには、使われなくなった坑道や機械、木造の建物だけが残される。

 

また、鉄道や幹線道路の経路が変わったことで、町そのものが交通の流れから外されることもあった。

たとえば、新たなインターステート・ハイウェイが町を迂回し、車の流れがルート66のような旧国道から離れると、かつて旅行者や運送の車で賑わっていたモーテルやガソリンスタンド、食堂は客を失っていった。

町は消えなくても、人や車が通り過ぎていた時代の痕跡だけが、道路沿いに取り残される。

 

 

 

さらに西部では、農牧業の大規模化や機械化が進み、以前ほど多くの人手を必要としなくなった

そのため、若い世代が仕事を求めて都市へ移ると、小さな町では店や学校、診療所などを維持することが難しくなる。

家や道路は残っていても、人の営みだけが少しずつ薄くなり、町のすぐ外に広がる荒野が、再びその内側へ入り込んでくる

 

 

 

 

こうした歴史のあとには、西部ならではの寂れた風景が残されてきた。

 

荒野の中に取り残された鉱山跡や、木造の建物が並ぶゴーストタウン

旧国道沿いには、色あせたモーテルやガソリンスタンド、錆びた看板が残り、小さな農牧業の町では、広い通りに人影がまばらになっている。

町を外れれば、乾いた平原や岩山がすぐそこまで迫っている

 

砂ぼこり、剥がれた塗装、ひび割れた舗装。

そうした古びたものが広大な荒野の中にぽつりと置かれることで、西部の風景には独特の渋さと格好よさが生まれる

 

 

映画や写真、ゲームもまた、こうした景色を繰り返し描いてきた。

荒野に生まれ、やがて取り残されていく町。
車の流れが途絶えた旧道。
どこまでも続く道の先に現れる、名もないモーテルやダイナー。

そこには、過ぎ去った時代の寂しさとともに、思わず車を停めて眺めたくなるような風情がある。

 

乾いた空気、古びた建物、果てのない大地が一つになった景色こそ、アメリカ西部の寂れた風景が持つ大きな魅力なのだ。

 

 

 

 

◆ この風景に浸れる作品

 

パリ、テキサス

ヴィム・ヴェンダース監督によるロードムービー。乾いた荒野や色褪せたモーテル、小さな町が静かな余韻とともに描かれ、西部に漂う孤独と旅情を深く味わえる名作である。

 

バニシング・ポイント

アメリカ西部を舞台にした伝説的なロードムービー。どこまでも続く道路と乾いた荒野、ロードサイドの景色が印象的で、西部ならではの自由と荒々しさが全編に漂っている。

👉ブログ内記事:『バニシング・ポイント』レビュー・感想|アメリカ西部をぶっ飛ばす、荒野と孤独のロードムービー

 

ノー・カントリー

コーマック・マッカーシーの小説を映画化したサスペンス。テキサスの乾いた土地や寂れたモーテル、人気のない道路が、不穏で張り詰めた西部の空気を強く印象づける。

 

荒野にて

オレゴン州の競馬場で一頭の馬と出会った少年が、アメリカ西部をさまようロードムービー。地方競馬場やモーテル、乾いた道路、小さな町を通して、現代の西部に残る孤独と生活の厳しさを映し出している。

👉ブログ内記事:『荒野にて』映画レビュー・感想:馬屋で働く少年が直面する困難と孤独、厳しい旅路に心が強く動かされる

 

Uncommon Places(Stephen Shore)

スティーブン・ショアによる代表的な写真集。西部を含むアメリカ各地のロードサイドや町角を写す。モーテルやガソリンスタンド、広い道路など、何気ない風景の中に宿る西部らしい空気も静かに伝えてくれる。

👉ブログ内記事:『Uncommon Places』:スティーブン・ショアが切り取ったアメリカの “なんでもない風景”

 

Approaching Nowhere(Jeff Brouws)

ジェフ・ブラウズが、アメリカ各地の道路沿いに広がる風景を記録した写真集。多くの西部の写真が収められており、色褪せた建物や人気のない土地から、取り残されたアメリカの味わい深い表情が感じられる。

 

生物学探偵 セオ・クレイ 森の捕食者(アンドリュー・メイン)

モンタナ州の森林で起きた不可解な死を、生物学者セオ・クレイが科学的な知識を駆使して追うミステリー。深い森と山間の小さな町を舞台に、過疎化した土地の静けさと、閉ざされた共同体に漂う不穏な空気を味わえる。

👉ブログ内記事:『生物学探偵 セオ・クレイ 森の捕食者』感想|熊の襲撃をめぐる生物学ミステリー

 

Red Dead Redemption

20世紀初頭のアメリカ西部を舞台にしたオープンワールドゲーム。荒野やゴーストタウン、古びた集落を自由に旅することができ、現代から振り返って見ても、どこか寂れた西部ならではの風景と空気を存分に味わえる。

 

ブルーベリー 黄金の銃弾と亡霊(ジャン=ミシェル・シャルリエ 原作、ジャン・ジロー(メビウス) 作画)

19世紀後半のアメリカ西部を舞台にしたフランスの西部劇漫画。砂ぼこりの舞う町や乾いた荒野が印象的で、文明と荒野の境界にある無骨で荒々しい世界が生き生きと描かれている。

👉ブログ内記事:『ブルーベリー 黄金の銃弾と亡霊』──乾いた荒野を旅する、西部劇漫画の傑作

 

 

 

 

 

 

木陰と古びた町並み──南部に残る寂れの風景

 

 

 

次に見ていきたいのは、アメリカ南部だ。

 

南部、とりわけ綿花栽培が広がった低地では、かつて奴隷労働を前提とした大規模なプランテーション農業が発達した。

奴隷制が廃止されたあとも、土地や富は一部の地主に偏ったままだった。多くの人々は小作農として暮らし、地域全体も長く農業に依存することになる。

 

やがて農業の機械化や大規模化が進むと、以前ほど多くの人手を必要としなくなった

仕事を失った人々は北部の工業都市や南部の大都市へ移り、小さな農村では、商店や学校、教会などを維持することが難しくなっていく。

 

一方、南部には繊維や家具、鉄鋼などの工場も進出し、工業を中心に発展する町が生まれた。

だが、その恩恵は地域全体には広がらなかった。工場の進出から外れた農村では、農業に代わる仕事が十分に生まれず、人口流出が続いていく。

 

また、一度は工業化された町も安泰ではなかった。

二十世紀後半になると、工場の自動化や統合、生産拠点の海外移転などが進み、多くの工場が閉鎖される。町には空になった工場や倉庫、閉店した商店が残されていった。

 

 

 

さらに、南部の山間部アパラチアでは、炭鉱や林業、鉄道を中心に谷間の町が作られてきた。炭鉱が仕事を生み、その周囲に住宅や商店、学校が集まり、町が成り立っていた。

だが、採掘の機械化や石炭需要の減少によって雇用が失われると、町を支える仕事もなくなる。山間部には新しい産業も入りにくく、谷間の集落は少しずつ縮小していった。

 

 

もちろん、そのような風景ばかりが広がっているわけではない。アトランタやナッシュビルのように大きく成長した都市もある。

しかし、農業や工場、炭鉱といった一つの産業に支えられていた地域では、その土台が失われたあとも、別の仕事へ移ることができないまま取り残された町が少なくなかった。

 

こうして南部では、草木やツタが人工物を覆い、町そのものが自然へ溶け込んでいくような景色が広がっていった。

 

 

 

 

 

そんな土地には、独特の空気をまとった風景が残されている。

農村に残る木造の家々や、小さな商店
人影の少なくなった町角。
閉鎖されたレンガ造りの工場や線路脇の古い倉庫
そして、谷間に寄り添うアパラチアの小さな集落

木陰が町を包み、ツタは壁を這い、草木は使われなくなった建物を少しずつ覆っていく

時を重ねた人工物は、ゆっくりと周囲の自然へ溶け込み、この土地ならではの穏やかな風景を形づくっている。

 

どこか物悲しく、それでいて穏やかでもある。

静かに時を刻んできた町並みには、古びたものだけが持つ風情と、ゆっくり歩いてみたくなるような旅情が漂っている。

 

 

映画や写真、ゲームもまた、こうした南部の風景を繰り返し描いてきた。

人の営みと自然が静かに溶け合う町並みや、長い年月が刻まれた建物、ゆっくりと時が流れる田舎道。

その一つひとつが、南部ならではの穏やかで少し物悲しい空気を映し出している。

 

 

 

 

◆ この風景に浸れる作品

 

ミステリー・トレイン

メンフィスを舞台に、見知らぬ人々の一夜を静かに描いた群像映画。古びたホテルや町角、線路沿いの風景には、音楽の都の華やかさとは対照的な、南部ならではの寂しく色あせた空気が漂っている。

 

The Outlands: Selected Works(William Eggleston)

ウィリアム・エグルストンが、アメリカ南部の町角を大型カメラで撮影した写真集。古びた商店や車、看板、荒れた舗装など、南部の日常に潜む、廃れた格好よさ鮮やかな色彩の中に見いだしている。

 

『Election Eve』(William Eggleston)

1976年の大統領選挙を前に、メンフィスからジョージア州プレーンズへ向かう道中を撮影した写真集。農道や小さな集落、古い家々や庭先から、南部の農村とスモールタウンに漂う、のどかでひなびた寂寥感が伝わってくる。

 

歌え!ロレッタ 愛のために

アパラチアの炭鉱町に生まれたロレッタ・リンが、カントリー歌手として成功していく半生を描いた伝記映画。山間の質素な集落から南部の町々へと続く風景には、素朴な暮らしと土地の厳しさが色濃く映し出されている。

 

脱出

南部の山間部を訪れた都会の男たちが、川下りの途中で過酷な事態に巻き込まれていくサバイバル映画。深い森や川、人気のない集落が、アパラチアの自然の美しさと、取り残された土地に漂う閉塞感を強烈に印象づける。

 

ハード・ラッシュ

ニューオーリンズを拠点に、パナマから偽札を運ぶ密輸計画を描いた犯罪映画。コンテナ船や港湾施設、倉庫、荒れた住宅街を通して、観光地の裏側に広がる南部の港町の無骨な風景を映し出している。

 

黒き荒野の果て(S.A. コスビー)

ヴァージニア州の地方を舞台に、過去を捨てきれない凄腕の逃走ドライバーを描いた犯罪小説。廃工場やトレーラーハウス、車のスクラップ場などを通して、産業の衰えた南部の町に漂う荒々しさと生活の重さを映し出している。

👉ブログ内記事:『黒き荒野の果て』レビュー──銃と車を動かす“家族”の物語

 

Mafia III

1960年代後半のニューオーリンズをモデルにした都市を舞台とするオープンワールドゲーム。裏通りや港湾地帯、湿地帯に残る古びた街並みから、南部の退廃的で色気の漂う空気が存分に味わえる。

 

Red Dead Redemption 2

19世紀末のアメリカを舞台にした、ギャング団の生き様を描くオープンワールドゲーム。ニューオーリンズ風の都市やプランテーション地帯、湿地の集落、アパラチアを思わせる山間部まで、南部の多様でどこか寂れた風景が広大な世界に描き込まれている。

 

 

 

 

 

 

錆びた工場と煙突──ラストベルトに残る寂れの風景

 

 

 

アメリカ北東部から五大湖周辺にかけての地域は、かつて鉄鋼や自動車、機械、ゴムなどの製造業によって栄えていた。

のちに「ラストベルト」と呼ばれるようになる、アメリカ有数の工業地帯である。

 

石炭や鉄鉱石を運ぶ鉄道と水運に恵まれ、各地には巨大な工場が建ち並ぶ。

工場の周囲には労働者の住宅や商店、学校が集まり、産業を中心とした大きな町が作られていった。

 

だが、二十世紀後半になると、その土台は少しずつ揺らぎ始める。

工場の自動化や統合によって、以前ほど多くの労働者を必要としなくなった。

さらに、生産拠点がアメリカ南部や海外へ移り、輸入品との競争も激しくなると、古い工業都市では工場の閉鎖が相次いだ。

こうした一連の流れは、「脱工業化」とも呼ばれている。

 

 

 

工場が失われると、その影響は町全体へ広がっていく。

仕事を求めて住民が流出し、商店や飲食店も客を失う。人口と税収が減ることで、住宅や道路、公共施設を維持することも難しくなっていった。

 

こうしてラストベルトには、巨大な工場や倉庫、線路、労働者のために作られた住宅街など、かつての工業都市の骨格だけが残されていった。

 

 

 

 

赤茶けたレンガ造りの工場。
錆びた鉄骨や煙突。
古い倉庫や操車場。
線路の向こうに並ぶ住宅街や、空き店舗の増えた大通り。

人が減っても、建物や道路の規模は変わらない

広すぎる駐車場や途切れた商店街、空き地の目立つ住宅地には、町の時間だけが途中で止まったような感覚が漂っている。

 

 

錆や煤に覆われた工業地帯には、荒々しさと静けさが同居している。

巨大な構造物は今も町の中に残り続け、重く、どこか物悲しい風景を作り出している。

 

 

 

 

◆ この風景に浸れる作品

 

Detroit: 138 Square Miles(Julia Reyes Taubman)

デトロイトの市域を広く歩き、その建物や道路、工場跡、人々の暮らしを丹念に記録した分厚い写真集。ページをめくっていると、まるで広大なデトロイトの町を時間をかけてゆっくりと巡り、工業都市が重ねてきた繁栄と衰退の痕跡をたどっているような感覚を味わえる。

 

Alone Street(Gregory Crewdson)

マサチューセッツ州西部の旧工業都市ピッツフィールドを舞台に、人気のない道路や古びた住宅街を映画の一場面のように演出した写真集。かつて工業で栄えた町には、ラストベルトにも通じる、脱工業化後の静かな疲弊がにじんでいる。

 

Grand Theft Auto III(GTA3)

巨大な犯罪都市を舞台にしたオープンワールドゲーム。古い工場や倉庫、高架鉄道、傷んだ道路が連なる町並みには、ラストベルトを思わせるポスト工業都市の風景が広がり、荒々しくも渋い魅力を放っている。

👉ブログ内記事:『GTA III』に“住んだ”日々──都市の後味が体に残るゲーム体験

 

ヒルビリー・エレジー──アメリカの繁栄から取り残された白人たち(J.D.ヴァンス)

アパラチアからラストベルトの工業都市へ移り住んだ一家の歴史をたどりながら、白人労働者層の暮らしと苦境を描いた回想録。アパラチアとラストベルトが、人々の暮らしや価値観を通して深く結びついていることが見えてくる。

 

 

 

 

 

 

高架下と裏路地──大都市に残る寂れの風景

 

 

 

アメリカを代表する大都市にも、中心部から外れた場所には、古びた建物や荒れた路地が残されている。

こうした景色が生まれた背景は、都市によって少しずつ異なる。

だが、共通しているのは、都市の成長や変化から取り残された地域が生まれてきたことだ。

 

 

第二次世界大戦後、アメリカでは自動車の普及とともに郊外が大きく広がった

新しい住宅地や商業施設が市街地の外側に作られ、暮らしや買い物の中心も郊外へ移っていく。

それまで市街地に住んでいた中間層が郊外へ移ると、古い住宅地では人口と税収が減っていった。商店は客を失い、建物や道路、公園などを維持することも難しくなる。

 

さらに都市によっては、高速道路の建設によって、昔からの住宅地が分断されることもあった。

 

 

 

産業の変化も大きかった。

港や鉄道、工場、倉庫の周囲には、かつて多くの仕事が集まっていた。

だが、製造業の縮小や物流の変化によって、それらの施設が使われなくなると、地域を支えていた雇用も失われる。

住宅の修繕は後回しにされ、空き家や空き地が増え、町角には荒れた印象が広がっていった。

 

もちろん、大都市そのものが衰退したわけではない。

しかし、都市が発展するほど、その華やかさと取り残された場所との落差が、かえって鮮明になった。

 

 

 

 

高架道路の下に広がる薄暗い空間。
フェンスに囲まれた空き地。
壁を覆うグラフィティ。

色あせた看板と、シャッターの下りた店。
ゴミの散らばる路地や、ひび割れた歩道。

そんな都会の死角には、巨大な都市が歩んできた時間と、その成長からこぼれ落ちたものが、むき出しの風景として現れている。

 

 

 

 

◆ この風景に浸れる作品

 

タクシードライバー

1970年代のニューヨークを舞台にした名作映画。ネオンのにじむ夜道や薄汚れた店、猥雑な繁華街をタクシーの車窓から映し出し、華やかな大都市の裏側に広がる荒れた空気を強烈に刻みつけている。

 

クライム・ヒート

ニューヨーク・ブルックリンを舞台に、マフィアの金を預かる古びたバーで働く男が、強盗事件に巻き込まれていく犯罪映画。くたびれた酒場や住宅街、冬の路地裏を通して、観光地ではないブルックリンに漂う重く寂れた空気を映し出している。

 

スモーク

ブルックリンの小さな煙草屋に集う人々を描いた群像劇。古い煉瓦造りの建物や色あせた店先、何気ない通りの風景を通して、都市の片隅に積み重なる時間と人々の暮らしを静かに伝えてくれる。

 

ブロンクス物語

1960年代のニューヨーク・ブロンクスを舞台にした青春映画。酒場や商店、路上に人々が集う古びた町並みの中から、労働者階級の暮らしや強い共同体、土地に根づいた文化が浮かび上がってくる。

 

ザ・ドライバー

夜のロサンゼルスを舞台に、寡黙な逃走専門ドライバーを描いた犯罪映画。地下駐車場や高架道路、人影の少ない街角など、都市の空白を思わせる無機質な風景が、研ぎ澄まされた緊張感を生み出している。

 

ポケットいっぱいの涙

ロサンゼルス・ワッツ地区を舞台に、暴力と犯罪が日常となった若者たちを描く映画。低層の公営住宅やリカーショップ、立体駐車場、ソファが放置された路上といった風景に、都市の周縁へと追いやられた街の張り詰めた空気がにじみ出ている。

 

スカーフェイス

キューバからマイアミへ渡った移民が、犯罪組織の頂点へとのし上がっていく姿を描いた映画。高架下の移民収容施設や安アパート、裏通りから豪邸までを行き来し、華やかな観光都市の裏側にある荒々しい顔を映し出している。

 

夜に生きる

禁酒法時代のボストンとフロリダを舞台にした犯罪映画。港町や密造酒の取引、湿った南部の街並みを通して、現在のリゾート地とは異なる、古いフロリダの猥雑で危うい空気を味わわせてくれる。

 

Walking the High Line(Joel Sternfeld)

ジョエル・スターンフェルドが、再開発前のニューヨークの廃線跡を撮影した写真集。雑草に覆われた線路や古い建物を通して、巨大都市の中に取り残された静かな空白と、自然へ戻りつつある風景を写し出している。

 

Grand Theft Auto V(GTA V)

ロサンゼルスをモデルとした巨大都市ロスサントスを自由に探索できるオープンワールドゲーム。高架下や工業地帯、グラフィティに覆われた地区、乾いた郊外など、華やかな都市のすぐ隣に広がる廃れた風景まで克明に描いている。

👉ブログ内記事:『GTA5』で歩く、寂れたアメリカ──路地裏と町外れに宿る風景の魅力

 

マックス・ペイン(Max Payne)

雪に覆われたニューヨークの暗部を舞台にしたアクションゲーム。地下鉄や倉庫、工場、ホテル、裏路地などを自ら歩くことで、ノワール映画のような荒れた都市の空気を身体的に味わうことができる。

👉ブログ内記事:『マックス・ペイン』ゲームの感想・レビュー──廃れた都会の空気と戦闘の奥深さを味わう

 

『ホットライン・マイアミ』

1980年代末のマイアミを舞台にしたアクションゲーム。昔ながらのドット絵でありながら、安アパートや倉庫、クラブ、ネオンに照らされた夜の街から、治安の悪い裏通りの空気がにじみ出てくる。

👉ブログ内記事:『ホットライン・マイアミ』レビュー・感想──派手さの裏に潜む、やめ時を失うゲームプレイの正体

 

 

 

 

 

 

さまざまな場所に息づく、アメリカの寂れた風景

 

 

 

もちろん、アメリカの「寂れた風景」は、西部や南部、ラストベルト、都会の片隅だけで語り尽くせるものではない。

人影の少ない農道や、静かなスモールタウン。
雪に包まれた田舎道。
古い橋や鉄道、役目を終えた建物。
広い農地の向こうにぽつりと建つ一軒家──。

地域や時代が変われば、その風景もまた少しずつ表情を変えていく。

 

ここでは、これまで紹介した地域には収まりきらないものも含め、「アメリカの寂れた風景」という感覚を味わえる作品を紹介したい。

そこにも、時を重ねた土地だからこそ漂う、静かな旅情と味わい深さが息づいている。

 

 

 

 

◆ この風景に浸れる作品

 

Christmas Day, Bucks Pond Road(Tim Carpenter)

ティム・カーペンターによる写真集。冬の農道や枯れ木、人気のない田舎道を静かに写し出し、観光地ではないアメリカの片田舎に漂う、孤独で内省的な空気を味わうことができる。

👉ブログ内記事:『Christmas Day, Bucks Pond Road』:物体の肌触りと、焦点のゆらぎが誘う孤独な心象風景

 

ギルバート・グレイプ

アメリカ中西部の小さな田舎町を舞台に、家族を支えながら生きる青年を描いた名作映画。どこまでも続く農地や古びたカフェ、小さな商店が並ぶ町並みから、穏やかで少し寂しげなスモールタウンの空気が静かに伝わってくる。

👉ブログ内記事:『ギルバート・グレイプ』感想・レビュー|静かな解放と、まなざしの温度

 

David Plowdenの写真集

アメリカ各地のスモールタウンや鉄道、工場、労働の現場を長年撮り続けた写真家David Plowden。彼の写真集『A Handful of Dust』『Commonplace』『Imprints』では、名もない町角や働く人々の風景を通して、時間を重ねたアメリカの日常に宿る静かな味わいが感じられる。

👉ブログ内記事:David Plowdenの写真集で味わう、消えゆくアメリカの風景

 

アメリカを歌で知る(ウェルズ恵子)

アメリカ民衆の歴史と文化を、歌を通して読み解く一冊。ホーボーや炭鉱夫、黒人労働者など、庶民の暮らしに根ざした歌詞から、華やかな歴史の裏側で生きてきた人々の息づかいと、土地に刻まれた生活の風景が浮かび上がってくる。

👉ブログ内記事:『アメリカを歌で知る』書評・感想・レビュー:苦労して生きてきたアメリカ庶民の生活や労働、文化の歴史を、歌を通して濃密に体感できる

 

 

 

 

 

 

 

まとめ──「アメリカの寂れた風景」という魅力

 

 

 

ここまで、アメリカ各地に漂う「寂れた風景」を、その背景や空気感の違いとともに見てきた。

乾いた西部。
湿り気を帯びた南部。
工業都市が並ぶラストベルト。
そして、大都市の片隅。

風景はそれぞれ異なる。しかし、そのどれにも、時間の積み重ねや人々の暮らしの痕跡、そして簡単には言葉にしにくい味わいが宿っている。

 

これからアメリカを旅したり、映画やゲーム、小説、写真集に触れるときには、ぜひそうした風景にも少し目を向けてみてほしい。

これまで何となく惹かれていた風景が、「アメリカの寂れた風景」という一つの魅力として見えてくるかもしれない。

 

このブログでも、そんな空気を味わえる作品や場所をこれからも数多く紹介していきたい。

この記事が、その小さな入口になれば、とてもうれしく思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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