『Ansel Adams: 400 Photographs』(アンセル・アダムス(Ansel Adams)/2007年)レビュー・感想
▶ アンセル・アダムス『Ansel Adams: 400 Photographs』(Amazonページ)
今回は、アメリカの大自然を撮り続けた写真家アンセル・アダムスの『400 Photographs』を通して、自然の美しさをじっくり味わう楽しさを紹介したい。
アンセル・アダムスと『400 Photographs』について
🔹 写真家紹介:「アンセル・アダムス」とは?
アンセル・アダムス(Ansel Adams, 1902–1984)は、20世紀のアメリカを代表する写真家のひとり。ヨセミテ国立公園をはじめ、アメリカ西部の雄大な自然を捉えたモノクロ写真で世界的に知られている。
最大の特徴は、光と影の豊かな階調、細部まで鮮明に描かれた自然の造形、そして緻密な構図にある。写真家フレッド・アーチャーとともに考案した「ゾーンシステム」は、撮影時の露出や現像を精密に管理し、意図した明暗を写真に表現するための手法として、写真史に大きな影響を与えた。
また、1930年代には、鮮明で精緻な写真表現を追求する写真家集団「グループf/64」の結成に参加。写真を芸術として確立する動きにも貢献した。自然保護活動にも熱心で、環境保護団体シエラクラブの活動を通じて、アメリカの国立公園や原生自然の保護にも尽力した。
🔹 写真集紹介:『Ansel Adams: 400 Photographs』とは?
『Ansel Adams: 400 Photographs』は、2007年に刊行された、アンセル・アダムスの代表作を中心に400点の写真を収録した大規模な作品集。
ヨセミテで撮影した初期作品から、1940年代の国立公園の写真、1960年代の晩年に近い作品まで、約半世紀にわたる活動を年代順に紹介している。
雄大な山岳風景から、森林、渓谷、岩肌、雲などの繊細な自然の表情まで、アダムスの写真表現の幅広さと、その変遷を一冊で楽しめる写真集である。
自然を楽しむ目が、少しずつ変わっていく
初めてアメリカやカナダの大自然を目にしたとき、度肝を抜かれた。
アメリカ西部やカナディアン・ロッキーを車で走っていると、思わず「うわっ……」と声が漏れるような雄大な風景が次々と現れる。
果てしなく続く荒野、巨大な岩山、幾重にも重なる山脈。当時は、有名な展望ポイントを巡り、目の前に広がる絶景にただただ圧倒される。そんな楽しみ方が中心だった。
そこに別の見方を加えてくれたのが、西部劇やアメリカ西部についての本、『Red Dead Redemption』のような作品たちだ。
何もないように見える荒野にも、かつてそこを行き交った人々の営みや暮らしがある。
土地の歴史や文化、人間と自然との関わりを知ることで、同じ荒野にも物語が見えてくる。雄大な風景に、何ともいえない色気や風情が宿りはじめた。
そして、自然の楽しみ方をさらに深めてくれたのが、ハイキングだった。
自分の足で山や森を歩くと、遠くの絶景だけでなく、足元の岩や木々の表情にも目が向くようになる。
複雑に張り出した木の根、ざらついた岩肌、逆光に透ける葉のきらめき、木々の間から差し込む光。土を踏む感触や鳥の声まで含めて、自然を身体で味わうようになった。
山頂や展望台へ向かう途中にも、こんなに面白いものがある。以前なら通り過ぎていた場所で、ふと足を止めることが増えた。
そして、そんな自然の楽しみ方に、また新しい視点を加えてくれたのが、アンセル・アダムスの写真集『400 Photographs』だ。
そこには、山や岩、木々、雲、光と影がつくる、自然の「造形」をじっくり味わう面白さが詰まっていた。
すでに大好きだった自然が、写真集を通して、さらに面白くなったのだ。
ここからは、『400 Photographs』を眺めるうちに見えてきた自然の美しさや面白さを、旅の思い出とともに書き綴っていきたい。

雑味のない、完璧主義的な美しさ──静かに整頓された世界
アンセル・アダムスの写真は、アメリカやカナダでは比較的身近な存在だ。書店では写真集やカレンダーを見かけることも多く、僕自身、彼の写真を使ったカレンダーを何度か飾っていた。
けれども、当時は「モノクロの自然写真とは渋いな」くらいの印象で、その美しさをじっくり味わったことはなかった。
そんな印象が一変したのが、『400 Photographs』を一冊の写真集として、改めて眺めたときだった。
まず驚いたのは、無駄なものがなく、すみずみまで整理されているような美しさだ。「雑味がない」とでもいおうか。
雄大で、ときに崇高な風景でありながら、決して派手に飾り立てたような印象はない。むしろ、余計なものを削ぎ落としたあとに残る、澄み切った美しさがある。
岩や木々、雲、光と影。自然の中では、人間の都合などお構いなしに存在しているものが、アダムスの写真では驚くほど美しい一つの画面に収まっている。
しかも、これがモノクロ写真なのだから面白い。色彩を使わず、光と影、形や濃淡だけで、自然の美しさを鮮やかに描き出している。
一枚一枚が、ため息が出るほど美しい。
無秩序にも思える自然の中から、これほど見事に美しさを見つけ出せるものなのか。400枚を見終えても、また最初からページをめくりたくなる。
そこには、「完璧主義」という言葉が浮かぶほど、明確な美意識と構築への意志が感じられる。
写真を眺めていると、アダムス自身がどれほど感覚を研ぎ澄ませて自然と向き合っていたのか、その精神状態まで想像できるような気がするのだ。
風景の美しさだけでなく極度に集中した人間の目を通して世界を眺めているような、そんな不思議な気持ちになる。

自然の造形美──形、光、影がつくる世界
『400 Photographs』を何度も眺めているうちに、僕が強く意識するようになったのが、自然の「造形」としての美しさだった。
これまでも、雄大な風景に圧倒されたり、ハイキングの途中で岩肌や木々の表情を楽しんだりしてきた。しかし、自然の中にある形や線、光と影の組み合わせを、それ自体の美しさとしてじっくり眺めることは、ほとんど意識していなかった。
アダムスの写真には、そんな自然の造形を楽しむ面白さがつまっている。
例えば、山々が幾重にも重なってつくる、なめらかな稜線。岩肌に斜めから光が差し込み、細かな凹凸がくっきりと浮かび上がる様子。川の流れが曲線を描き、水面に生まれる波紋や光の反射が、思いがけない模様をつくり出すこともある。
空を見上げれば、雲が複雑な形をつくり、その明るい部分と暗い部分が、まるで彫刻のような立体感を生み出している。森の中では、木々の幹が繰り返し並ぶことで、自然のリズムのようなものが感じられる。
そうした形や線、光と影が組み合わさることで、自然の風景が、ときには一枚の抽象画のようにも見えてくる。
次に山や森を歩くときには、岩の形や木々の重なり、空に浮かぶ雲の模様にも、もっと目を向けてみたい。『400 Photographs』を開くたびに、そんな楽しみが少しずつ増えていくのだ。

一度見ただけでは終わらない──癖になる味わい
アダムスの写真には、ただ美しいだけでは終わらない、どこか癖になるような味わいがある。
その理由の一つは、一枚の写真の中に、いくつもの見どころがあることだと思う。
最初は雄大な山々に目を奪われても、しばらく眺めていると、その上に広がる雲が気になってくる。さらに手前の風景へ視線を移すと、そこにも別の面白さがある。
一枚の中で視線を動かしながら、いくつもの美しさを楽しめるのだ。
そして、もう一つ面白いのが、同じ写真でも、見方によってまったく違う魅力が現れてくることだ。
最初は雄大な自然の風景として眺めていた写真が、あるときには、形や線がつくる抽象画のように見えてくる。また別の日には、光と影が生み出す立体感に惹かれるかもしれない。
写真そのものは何も変わっていない。それなのに、こちらの目の向け方が変わるだけで、違う写真を見ているような面白さが生まれる。
だからこそ、一度「美しいな」と思って終わりにはならない。
ページをめくるたびに、以前は気づかなかった魅力が見えてくる。一枚の写真を、何度でも新鮮な気持ちで楽しめる。
僕にとって、これがアダムスの写真に感じる、癖になる味わいの一つなのだ。

眺めるほどに面白い、アダムスの風景
それでは、『400 Photographs』の中から、特に印象に残った写真をいくつか取り上げてみたい。それぞれの写真を眺めながら、僕が感じた美しさや、見ているうちに気づいた面白さを書き綴っていこうと思う。
Mount Williamson, Sierra Nevada, from Manzanar, California, C. 1944

Ansel Adams『400 Photographs』(2007)より Mount Williamson, Sierra Nevada, from Manzanar, California, c. 1944。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© Ansel Adams
この写真を初めて見たときは、かなり衝撃を受けた。
遠くには、光を浴びたシエラネバダの山々がそびえ、雲まで印象的な形をしている。これだけでも十分に美しい風景だ。僕なら、当然のごとくこの山々を主役にして写真を撮るだろう。
ところが、アダムスの写真では、その手前にある岩々が、驚くほど大きな存在感を放っている。
なぜ、こんなに美しい山々があるのに、岩をこれほど目立たせるのか。強い違和感を覚えた。
しかし、見ているうちに、その違和感こそが面白くなってきた。
遠くの山々は、光と雲に包まれて、どこか幻想的ですらある。一方、手前の岩々は、ゴツゴツしていて、重そうで、いかにも硬そうだ。横から差す光が岩肌の凹凸を浮かび上がらせ、思わず触れてみたくなるほどの質感が伝わってくる。
あれほど美しい山々を前にして、なお視線を奪ってしまう岩々。その意外な組み合わせが、手前の岩の生々しい存在感を、いっそう際立たせているように感じる。
この写真を眺めていると、次に山を歩くときには、遠くの絶景だけでなく、足元に転がる岩の一つひとつにも、もっと目を向けてみたくなるのだ。
ちなみに、『400 Photographs』には、これと似た構図の写真がほかにも登場する。
例えば、「The Tetons and Jackson Lake, Driftwood, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」。遠くの山々と、その手前に広がる湖だけでも十分に美しいのに、さらに手前には流木が大きく写っている。折り重なる流木の素朴な木肌には、思わず触れてみたくなるような魅力を感じる。
また、「Monument Valley, Arizona, 1958」では、あろうことか、あの有名なモニュメントバレーの3つのビュートの手前に、大きな岩が写っている。最初は「邪魔な岩だな」と思ったが、今ではその独特の形や模様に愛着すら感じている。
Cliffs and Clouds, Grand Canyon National Park, Arizona, 1942

Ansel Adams『400 Photographs』(2007)より Cliffs and Clouds, Grand Canyon National Park, Arizona, 1942。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© Ansel Adams
グランドキャニオンにいるのに、谷よりも空の方を重視する。その発想がまず面白い。
そして実際、空と雲が織りなす模様が、息をのむほど美しい。
さらに面白いのは、雲よりもその間に広がる黒い空の形の方が、手前に浮かび上がってくるように僕には見えるのだ。
雲ではなく、黒い空が「こっちが主役だ」と声を張り上げ、同じ黒をまとった下の谷が、「俺が支えてやる」と無言で語っているような感じがする。
谷でも雲でもなく、空の形を見ている。アダムス自身がどう考えていたかはわからないが、そんな逆転の発想を感じさせる大好きな一枚だ。
何を見るべきか、最初から決めつけなくてもいい。そう思わせてくれる写真でもある。
そして『400 Photographs』には、ほかにも雲が印象的な写真がたくさん登場する。
例えば、「Burro Mesa and the Chisos Mountains, Big Bend National Park, Texas, 1947」。遠くの山々の上に広がる雲は、まるで山から炎が立ち上っているかのようだ。雲の形に、今にも動き出しそうな勢いまで感じられる。
この写真集を見てからというもの、街を歩いていても雲が気になって困るのだ……。
ちなみに、グランドキャニオンでは、谷を下るハイキングが楽しめることをご存じだろうか。
渓谷の中へと続くトレイルには、途中で折り返す際の目安となるポイントもあり、体力や経験に応じて、日帰りでその一部を歩くことができる。
展望台から見下ろすグランドキャニオンも素晴らしい。しかし、実際に谷へと足を踏み入れると、目の前に迫る巨大な岩壁や、岩肌の色や形、光と影がつくる模様など、上から眺めるだけでは気づかなかった美しさに出会える。
グランドキャニオンを訪れる機会があれば、ぜひ、そんな楽しみ方も味わってほしい。

グランドキャニオンのハイキングトレイルにて。この風景を前にして、さらに先へ進んでみたいと思わずにいられるだろうか。どこまでも広がる雄大な景色と、複雑に入り組む谷の美しさに圧倒される。(撮影:筆者)
Formations, Bryce Canyon National Park, Utah, 1947

Ansel Adams『400 Photographs』(2007)より Formations, Bryce Canyon National Park, Utah, 1947。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© Ansel Adams
ブライスキャニオンは、僕の大好きな国立公園の一つだ。
特に好きなのは、無数の尖った岩々がつくる、巨大な迷宮のような風景である。
実際に訪れたときも、谷底へと続くトレイルや、その中で人間がちっぽけに見えるほどの雄大さ、そして「これからあの岩々の間へ入り込んでいくのだ」という高揚感に圧倒されていた。
だから、この写真を最初に見たときは、実はそれほど好きになれなかった。
雄大さが一目では伝わりにくく、岩々が画面いっぱいに広がる、どこか単調な写真に感じられたのだ。
しかし、何度も眺めているうちに、印象が変わっていった。
じわじわと目を奪われるのは、無数に並ぶ岩々のゴツゴツした形だ。尖った部分に光が当たり、そのすぐ隣には深い影が落ちる。岩肌の粗さまで伝わってくるようで、見れば見るほど面白い。
そして写真の上部に目を移すと、今度は比較的なだらかな山肌が広がっている。複雑で荒々しい岩々となだらかな斜面。その二つがくっきりと分かれることで、岩々の立体感や奥行きがいっそう際立って見える。
荒々しい岩々をじっくり眺めたあと、ゆったりした斜面へ視線を移す。すると、一枚の写真の中で気分転換をしながら、風景を楽しんでいるような感覚にもなるのだ。

ブライスキャニオン国立公園のハイキングトレイルにて。巨大な岩々が迫る迫力と、その奥へと分け入っていくワクワク感がたまらない。(撮影:筆者)
The Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942

Ansel Adams『400 Photographs』(2007)より The Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942。作品紹介のために引用・縮小して掲載。© Ansel Adams
アダムスの代表作の一つで、ワイオミング州のティトン山脈と、大きく蛇行するスネークリバーを写した一枚。
実は僕も、以前まさにこの場所を訪れていた。ところが、そのことに気づくまでには少し時間がかかった。現地では手前の木々に遮られ、展望スポットから川がほとんど見えなかったからだ。
後になってこの写真をじっくり眺め、同じ場所だったと知ったときには驚いた。
自分が訪れたあの風景の中に、これほど美しい川の曲線が広がっていたことを、写真を通して初めて知ったのだ。
写真でまず目を奪われるのは、暗い森の中を縫うように流れる、明るいスネークリバーだ。その大きな曲線を目でたどっていくと、視線は自然と奥へ向かい、やがて堂々とそびえるティトン山脈に行き着く。
さらにその上には、光と影が入り混じる表情豊かな雲が広がっている。
川を眺め、山々を味わい、今度は空へ。一枚の中にいくつもの美しさがあり、視線を移しながら何度でも楽しめる作品だ。

雄大なティトン山脈。木々が生い茂り、スネークリバーは一部しか見えなかったが、それでも山々と川が織りなす風景の美しさを存分に味わえる場所だった。(撮影:筆者)
ソファに座って、アメリカの大自然へ
アンセル・アダムスの『400 Photographs』を眺めていると、自然の中には、まだまだ自分が気づいていない美しさがあるのだと感じる。
最初は何気なく見過ごしていたものが、じっくり眺めるうちに、たまらなく魅力的に思えてくる。そんなふうに、一枚の写真と長く付き合えるのも、この写真集の面白さだ。
そして、その楽しさは写真集の中だけでは終わらない。次に山や森を歩くときには、以前なら通り過ぎていたような場所で、思いがけない美しさに出会えるかもしれない。
休日に、ソファに腰を下ろして、ゆっくりとページをめくってみてほしい。
遠いアメリカの自然を一枚一枚眺めながら、自分だけの小さな発見を楽しむ。そんな至福の時間が味わえる。
そして、写真の中の風景に心を奪われたなら、いつか実際にアメリカの大自然へと繰り出してみてほしい。
【著作権・参考情報について】
本記事に掲載しているアンセル・アダムスの作品写真は、『Ansel Adams: 400 Photographs』(2007)より、作品の紹介・批評に必要な範囲で引用している。画像はウェブ掲載用に画質とサイズを抑え、掲載点数も本書全体のごく一部に限っている。
アダムスの写真が持つ真の魅力を味わうには、ぜひ実物の写真集を手に取ってほしい。
特に、光と影の繊細な階調、岩肌や雲の細かな表情、画面全体に行き渡る緻密な美しさは、縮小された画像だけでは十分に伝わらない。
一枚一枚をゆっくり眺めながら、自然の中に潜む思いがけない美しさを、ぜひ実物の写真集で味わってほしい。
▶『Ansel Adams: 400 Photographs』(Amazonページ)
https://anseladams.org/pages/about
https://americanart.si.edu/artist/ansel-adams-20
https://www.hachettebookgroup.com/titles/ansel-adams/ansel-adams-400-photographs/9780316117722/
https://art.state.gov/personnel/ansel_adams/
自然を見る目を広げてくれる、もう2冊
最後に、自然の美しさをもっと深く楽しみたい人に向けて、もう2冊の本を紹介したい。一冊はアダムスとはまた違った自然の魅力を味わえる写真集、もう一冊は自然の中に潜む美しさを見つけるヒントが詰まった本だ。
エリオット・ポーター(Eliot Porter) 『In the Realm of Nature』
エリオット・ポーター(Eliot Porter、1901〜1990)は、アンセル・アダムスと並んでアメリカの自然写真を代表する写真家の一人だ。カラー写真による自然表現の先駆者として知られ、アダムスとはまた異なる美しさを追求した。
『In the Realm of Nature』は、2012年にJ・ポール・ゲティ美術館から刊行された写真集。初期のモノクロ作品も収められているが、中心となるのは色彩豊かな自然写真で、終盤には鳥を写した作品も登場する。
この写真集もまた、息をのむほど美しい。
アダムスが雄大な山々や渓谷を印象的に描き出すのに対し、ポーターの写真では、もっと身近な自然が主役になることが多い。
岩や石の間に広がる苔、折り重なる枝や葉、色づいた森、川の流れ。ハイキングの途中で出会うような、何気ない風景が驚くほど美しく切り取られている。
アダムスの写真が、光と影によって自然の形を彫刻のように浮かび上がらせるとすれば、ポーターの写真は、柔らかな光の中で色と形が溶け合うような美しさが印象的だ。
葉の色が幾重にも重なり、木々や岩の形が複雑に入り組む。自然の風景を写しているはずなのに、ときには平面的な抽象画を眺めているような、不思議な感覚になる。
その色合いや形の組み合わせには、単に「きれい」というだけでは収まらない、どこか艶やかで、なまめかしさすら感じさせる魅力がある。自然の中に、これほど繊細で色気のある美しさが潜んでいたのかと、思わず見入ってしまう。
同じ自然写真でも、楽しめる世界はずいぶん違う。 『400 Photographs』を気に入った人には、ぜひこちらも眺めてみてほしい。
▶『In the Realm of Nature』(Amazonで見る)
ブレンダ・サープ(Brenda Tharp) 『風景を極める (ナショナル ジオグラフィック プロの撮り方)』
自然や野生生物の魅力を、美しい写真とともに長年伝えてきた『ナショナル ジオグラフィック』。その関連書籍の一冊に、写真家ブレンダ・サープの『風景を極める (ナショナル ジオグラフィック プロの撮り方)』がある。
本来は風景写真の撮り方を学ぶための本だが、読んでみると、これがなかなか面白い。
光の差し方によって変わる岩肌の表情、木々や山々がつくる形とリズム、色彩の組み合わせ、風景の奥行き、雲や霧が生み出す美しさ。自然のさまざまな見どころを、豊富な写真とわかりやすい解説で紹介している。
もちろん、カメラの設定や撮影技術についての説明も多い。とはいえ、写真を本格的に撮るつもりがなくても、「自然のどこに目を向けると面白いのか」という発見がたくさんある。ハイキングの途中で景色を眺めるときにも、旅先でスマートフォンを向けるときにも役立つ一冊だ。
アンセル・アダムスやエリオット・ポーターの写真集には、言葉で説明されなくても、ただ眺めているだけで美しさが伝わってくる喜びがある。
一方で、その美しさがどこから生まれているのかを、言葉と写真で知っていく楽しさもある。そんな、写真集とはまた違った角度から自然の魅力を味わえる本として、おすすめしたい。
▶『ナショナル ジオグラフィック プロの撮り方 風景を極める』(Amazonで見る)
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